その4 太陽に降りていく
「超種族の仕業だと言うのか?」画面で父様が驚く。
「自然現象に見せかける、その手口が似ている気がするの。それに、問題の太陽黒点付近に何かがいるみたい。マイカちゃんには見えてるわ。」
「ふーむ」と考え込む父様。
「オヤジ、俺達にこのまま行かせてくれないか。」ここで、カズラ兄が四人の気持ちを代弁した。「この現象は作為的だと言ったよな。謎の存在は意志を持っている。つまり知性がある。対話ができるかも知れない。」
「私を襲ってきた超種族は、問答無用だったけどな。」またまた考え込む父様。
「だめだよ先生、子供たちを危険にさらすことになるよ。この星の守りを固めるべきだわ。」これはサナエ母様。分かるけど母様、敵の攻撃はますます過激になるかもよ。
「それは違うぞサナエ、守る前に攻めるべきだ。」そう、流石は私の母様、そう来なくっちゃね。
「あらあらカレンは気が早いわね。まずその敵と話してみよう、とカズラは言っているのよ。」逸るカレン母様を制したのは、クレア母様だ。
「話の通じる相手には、対話こそが最高の戦術よ。ウメヅさんも言ってたわ。相手にその気があれば、ですけれど。」そしてクレア母様は、少し考え込んだ様子だったが、「子供たちを行かせましょう、旦那様。」これが結論だった。
「相手が本当にあの超種族ならば、この星を滅ぼすのも容易いでしょう。でも待っているだけでは、守るだけでは解決しません。生き残るために行動の余地があるならば、私たちはそれをすべきです。」
「よし、分かった。言って来い! 十分に気を付けてな!」父様が最後にそう言ったけど、これってクレア母様の意見に乗っかっただけだよね。いつもの通りだもん。
そして「マイカ、子供達を守ってちょうだい。」クレア母様が、そう付け加えたら、「はい、お母様」って返事をするマイカ。あんたの母親は、マーコット姉さんでしょうよ。
クレア母様はワタルの生みの親で、カズラや私の育ての親。私だってクレア母様のおっぱいを分けてもらって大きくなったんだからお母様って呼べるけど、あんたはまだワタルと結婚した訳じゃないわ。
それでも「お母様」って呼ばれてニコニコしてるクレア母様、きっと魔法の弟子としてこの子を買っているのね。確かにさっきの魔法の泡は凄かったし、サホなんか「もう私じゃあ、教えられない」って言ってたっけ。
◇ ◇ ◇
船は、太陽に向かって進み始めた。
亜光速で降りているから、数十分かかるわね。今なら、さっきの太陽フレアで大量に放出されたコロナ質量の塊には突入せずに接近できる。あんな濃い荷電粒子の雲の中では、そもそも飛べないもの。
船のAIは、再びゾラックに切り替わった。この船は今、自立航行している。これだけ離れると地球との、つまりタローとの電波交信に時間がかかるからだ。
それにしても、第三惑星の大気に影響を与えるほどの太陽嵐か。でも、あり得ないとも言い切れないわ。
最近も、地球から見える夜空の星に大減光が観測されたことがあったのを、私は思い出していた。あれは遠くの赤色巨星が、突然巨大なコロナ質量を放出した結果らしかった。
自分たちの星を守るって、大切な事よね。
超種族の攻撃じゃあなくっても、小惑星とか太陽フレアとから地球を守る方法を考える必要があるわ。今度、父様の昔の仲間が訪ねてきたら、私から聞いておこうかしら。私たちの科学水準がそれに届くのを、待ってはいられない気がするわ。
太陽に接近してゆく船の中で、私はそんな事を考えていた。
◇ ◇ ◇
「カズラ兄様、そろそろよ。速度を落として。」マイカの言葉を受けて、カズラ兄がゾラックに指示を出す。
スクリーンに映る太陽は、今や画面いっぱいに大きく広がっていた。もちろん肉眼で直視などできないから、これは短波長の紫外線偏光映像だ。ここまで来ると、例の黒点がはっきりと見える。
「いるわ、あそこに。」マイカが、確信した瞬間だった。
「何かしてくるといけないから、船を泡で包んでおくわね。」そう言って、ゆっくりと両手を広げる。輝く銀色の波動が、船の壁を音もなく通り抜けていった。
「ワタル兄様、止められていたけど、私行ってくるね。」
言われたワタルは、「うん、それしかないか。」と返事をした。
一体何が始まるの? マイカはそのままベッドに横たわると、眼を閉じた。すると、その体から霞のような何かが浮かび上がる。
「おい、マイカ。わざわざ具象化しなくても、いいぜ。」
「大丈夫よ、お兄様。これだけお日様に近いんだもの。船の外には、魔素が浴びるほどあるわ。」
「そう言えば、そうか。」
「それに、私が見えた方がこの船から分かりやすいでしょ。」その霞は、朧げに人型になると、そのまま船の壁をすり抜けていった。




