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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【リムゾーン編】 第一章 災いの正体
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その3 見破る

「物質は通過させず、しかし波は通すのですね。あの泡は、どのくらい保持できますか?」AIゾラックの声が聞いてきた。

「多分、一日くらいは大丈夫。張ってしまえば、魔素はいらないの。消すときには、少し魔力を使うけど。」


「それは歓迎すべき情報です。念のために重力波バリアは維持しますが、負荷がまったくないのでエネルギーが大きく節約できます。そして太陽風の観測には、この泡は影響がありません。」AIの声が、少し嬉しそうね。うん、単独動作(スタンダロン)でも、人格がまったくないわけでもないらしい。


それから一時間ほど、カズラ兄は操縦席で、私はハロックとの思い出が残る右側のベッドに腰かけて、そしてワタルとマイカは左側のベッドの端に腰を下ろしたままで、スクリーンの太陽の画像を見守っていた。


この船のAIゾラックが、今回のフレアで放出された太陽大気の荷電粒子(プラズマ)の位置を、三次元的に捉えようとしていた。時間と共に、スクリーンには太陽を中心として回転する雲のような画像が徐々に完成に近づきつつある。


「あの魔法の泡のお陰で、観測に集中できました。この白い雲のような部分が、今回のフレアで発生した高速太陽風です。太陽の自転と共に回転しており、これが地球に到達するのは、今から42時間後と判明しました。」AIが説明してくれた。


「そして、フレア発生の直後に押し寄せた亜光速の粒子も、すでにここを通り過ぎました。魔法の泡を、消しても良いと判断します。」

「分かったわ。」マイカが立ち上がり、また両手を広げる。泡は消えたのだろう、しかしあの騒音と振動が再び始まることはなかった。


「まもなく地上との通信も再開すると思われ・・・・・ おおっ、無事だったようだな!」AIの声が、突然タローに変わった。

「よくやってくれた、これで地上では準備ができる。ただ受け取ったデータからして、今回の太陽嵐の規模は非常に大きいな。この星を直撃して、大気圏そのものに甚大な影響を与えかねない。」


地上では、瞬時にこの船の観測データを共有化したみたい。この船が、外気圏を抜けてここまで来て観測した甲斐があったわね。

だけど「直撃して、甚大な影響」なのね、荷電粒子の風が大気圏を乱すほどならば、地表にも被害が及ぶことが必至だ。これは送電網の整備どころではないわ。


マイカちゃん、怖くないかな? しかしそのマイカは、スクリーンに映し出された太陽の紫外線画像を、なおもじっと見つめたままだ。

しかも、「ねえ、カズラ兄様、カミラ姉様。あそこまで、この船で行けないかな?」そう言って、太陽を指差した。可愛いけど強い子なのね。


「タロー、太陽表面を大きく見せてくれる?」私の指示で、画像がズームアップする。「先ほどのフレアは、この黒点付近で発生した。」その画像に、タローが赤く光る丸印を重ねて見せた。その黒点は、一時間が過ぎた今 太陽の自転によって、先ほどとは位置を変えていた。


「うん、やっぱりいるわ。」マイカがその赤い丸印 太陽の黒点を指差す。もちろん、私には見えない。この船の観測装置も判別できない。だが、何かがあそこにいて、この地球に害意を示しているのを、この子は感じ取っているのだ。彼女の父の、魔人の血のなせる業なのかしら。


「強い意志を感じるの、と言うことは知性があるはず。だから、会話してみるべきだと思うのよ。」マイカは、その黒点を睨みつけたままだ。

「うーん、どう考える、タロー?」カズラ兄が、タローに意見を聞く。


「太陽の表面と見える部分は、絶対温度200万k(ケルビン)もの大気層だ。意志を持った存在が、そんなところに留まっていられるとは考えられない。水星軌道の内側あたりで、その太陽光球の黒点の上空に浮かび、太陽の自転に合わせて動いているのだろう。」


「なぜ、黒点の上空なのかしら?」私もタローに聞いてみる。

「黒点とは太陽磁場によって生み出されるものだ。そして太陽フレアは、その黒点付近で発生することが多い。」


「じゃあ、何者かが太陽磁場に干渉して、太陽フレアを誘発させているんじゃない?」と、これは私の思い付きだ。

「できたとしても、なぜそんなことをする? 恒星磁場に干渉できるくらいの奴ならば、面倒なことをせずに俺たちの星に害をなせるんじゃないのか?」とカズラ兄。


「やろうと思えばできるけど、目立ちたくないのかもな。」と言ったのは、ワタルだ。「あくまでも自然現象に見せかけて、俺たちの星を叩く。まるで、、、」

私が、その発言を引き取った。「あの小惑星を差し向けたように、ね。」

ワタルが、ウンと頷いた。


言った私がゾッとした。思わず尻尾がブンブンと振れた。

それは、私たちが子供の頃、私の弟のヤクサの、その下の妹ユラや、クレア母様の次女ミヒカが生まれる少し前に起きた事件だ。

地球に向けて小惑星を誘導した超種族。落ちてくる小惑星を、なんとか砕いて地上に降りた父様たちを、今度はその超種族が待ち構えていて父様を襲ってきた。


クレア母様が捉えどころのないその敵を時空魔法で固定し、カレン母様がその体を真っ二つにしたという、何度も聞かされた話だ。そんな奴らが、また関わっていると言うの!


操縦席のカズラ兄が、タローに指示をした。「オヤジに繋いでくれ。」

(続く)

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