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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【カミラ編】 第一章 太陽フレア
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その1 カミラの技術指導

ハルウシで行われた全体会議から、半年が過ぎていた。

あの後に冬が来て、北の島は雪に閉ざされた。街々の交易も細まる季節、だがオタルナイでは製鉄所の、ハルウシでは缶詰工場の建設工事が、その間も着々と進められていたのだった。


そして春、山々の雪も消えた。

製鉄所ではいよいよ鋼材の生産が開始され、その鋼材で組み上げられた背の高い鉄塔が、新緑の山々に姿を見せ始めていた。ハルウシとサホロを繋いで、試験的に敷設されつつある送電網なのだ。


基幹の発電施設はハルウシの缶詰工場に置いた大型ボットの融合炉、発電圧は一万ボルトとなる。これを送電効率の観点から百万ボルトの超高電圧・低電流に変換して、地表から高く組み上げた鉄塔の間を中継しつつ、銅の撚り線で作られた送電線で繋いでいく。


地元のハルウシ、そして電力を受け取る最初の街サホロでは、近郊に置いた変電所で受電して今度は段階的に降圧していく。街の地下を走る送電線に数万ボルトで供給し、家庭用変圧器では最終的に百ボルトまで降圧する仕組みだ。


まずはハルウシの街とルメナイ親方の住む漁村が、ジローの母星からもたらされる面発光体(めんはっこうたい)の恩恵を受けることになる。「火と熱のない(あか)り」が、日が暮れた街角や家々の室内を照らすのだ。


全体設計は、ジローの長女カミラが担当した。鉄塔に使われる鋼材や送電線に用いる銅線は、ワタルの婚約者アカネがオタルナイに建設された精錬・製鉄所に寝泊まりしながら大奮闘して間に合わせたものだ。

そして街の地下に埋設される電線は、カミラの弟のヤクサが銅線を被覆する耐候性のある樹脂の大量供給に成功したことで生産が可能になった。勿論ジローの母星の技術協力を得たのだが、半年で辿り着いたのは、彼らの努力の賜物だと言って良い。


 ◇ ◇ ◇


今日もカミラは、技術指導に忙しい。

母カレンから獣人族の遺伝子を色濃く受け継いで竜騎士として名を馳せたカミラは、今この星で最初の電気技師として新たな道を歩み始めたところだ。

武芸に(ひい)で、学業でも優秀な成績をおさめた彼女は、高等部に進むと物理化学を専攻した。そして父ジローの母星との交易で、この星に産業革命の波が押し寄せるのが見えたとき、すかさず電気技術者として手を挙げたのだった。


母によく似て、輝く大きな瞳が映える精悍な顔立ちに、長く逞しい手足と引き締まって機敏な体躯。短槍(たんそう)の名手として知られた彼女は、騎士団きっての好男子(イケメン) 竜騎士長カークの双子の姉であり、カークと同様に獣人の肉体美を体現する美しき闘いの女神であった。但しこれは一年前の話だ。いち早く転職を果たしたカミラは、今ではこの北の島の給電網建設の総責任者の立場にいる。


鉄塔を建て、送電線を張る高所作業に(たずさ)わるのは、飛竜に跨って身軽に働く獣人族の電気技師たちだ。騎士団の竜騎士として日々鍛錬していた者たちが、相棒の飛竜と共に今 続々と技術者に転向していた。カミラを慕ってきた者も多い。

そして街中(まちなか)での地下配線には、土属性魔法を駆使する魔族の電気技師たちが、やはりカミラの指導を得てその腕を振るおうとしていた。


「まったく、ワタルには感謝しかないよ。」ウスケシ市内にあるワタルの治療院の食堂で、ようやく(あわただ)しくも昼食に有り付いたカミラが、掻き込む(さじ)を止めて言った。

「あんたの考えた竜騎士と魔導士による電設工事、私たち獣人族と魔族の新しい仕事(ジョブ)として最適(ピッタリ)さ。まさに得意分野で活躍できるんだからねぇ。」正確にはカミラは人族の父ジローと獣人族の母カレンの長女、つまり混血(ミックス)だが、本人はその見た目もあって自分を獣人族に位置付けているようだ。


ジローの三人いる嫁たちの最初の四人の子供たち、サナエの子カズラ、そして二ヶ月後に生まれたカレンの双子は姉のカミラと弟カーク、そして数日後にクレアが産んだワタル。

今ちょうど二十歳になったこの四人は、特に互いを信頼し合う絆が強かった。

父のジローも、頼もしく信頼を置いている。この星間交易の計画も、ジローとしては表に出ることなく彼らに任せようとしているようだ。


「しかも、土魔法の得意な魔族を集めて、技術者集団を用意してくれているとはね。」カミラが言ったのは、マーコット商会の面々のことだ。

魔獣退治から護衛まで「よろず引き受けます」の看板を掲げていたマーコット商会も、すかさずこの産業革命の流れに乗った。ワタルから土属性魔法の特訓を受けて、どうやら電気技師として仕事ができるようになった姉さんの配下たち。


「さっそく、これから魔動機に乗せて現場に向かうわ。大叔母様、いいえマーコット姉さん、準備はいい?」そう、カミラがワタルの住むウスケシにやってきた目的は、マーコット商会の面々を電設技術者として迎えるためだった。


「カミラ技師長、これから宜しく頼むよ。私たちも精一杯頑張るからさぁ。マーコット商会、一世一代の大仕事だからねぇ。」一緒に食事をしていたマーコット姉さんが、満面の笑みで応えた。

(続く)

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