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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【カミラ編】 第一章 太陽フレア
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・・・ 蘇る

主上の依代が破壊されるさまを見極めて、私は視点を現在まで引き上げた。やはり、過去に主上を襲ったのは、ジローとその仲間だったのだ。


この星の生き物の(つたな)い努力を評価して、生存をお許しになった主上。それなのに、その慈悲深い主上に危害を及ぼすとは、まこと憎むべき存在ジローよ。そもそも、お前がこの星系の秩序を乱したことが、全ての原因なのだ!


そして主上は、どこに行かれたのか? まだ思念体のままで、この時空の周辺に漂っておられるのですか?

思考波を放って呼びかければ、お応えいただけるのでしょうか? しかし、それは詮無(せんな)きこと。この星系で私が思考波を漏らした刹那(せつな)、評議会はこの私を見つけ、捕らえ、そして罰するだろう。私は、この星系への立ち入りを禁止されているのだ。


私が今できることは、いつか主上がお戻りになることを信じて、あの依代を復活させることだ。そう、あの焼け焦げた原形質の細胞のいくつかは、まだ生きていた。


玄室の石棺に戻ってきた。

必要なのは新鮮な肉だ。地上にいる者共を、ここまで連れてこようか? 一人いれば十分だ、その肉を生き残った細胞に食わせてやればよい。そうすれば、依代は(よみがえ)る。後は、主上の思念体が乗り移るだけだ。


いや待て、私が人間に憑依したところで、入口の扉はどうする。鍵がかかっていたではないか。この石棺の蓋も、一人では動かせないほどの重量がある。誰か一人を操れたとしても、周囲に見つからぬように扉を開けて忍び入り、石棺の蓋を開けるのは難しかろう。


考え込む私の傍で、うごめく何かがいた。蜘蛛だ、こんな打ち固めた土壁で作られた地下の小部屋でも、彼らの獲物はいるのだろう。

この蜘蛛に憑依してみる。こ奴ごとき生き物は、簡単に操れた。石棺の蓋の隙間から、蜘蛛を潜り込ませ、そのまま干からびた依代まで歩かせた。蜘蛛が触れたとたんに、生き残っていた細胞は原生生物(アメーバ)にように偽足(ぎそく)を伸ばして、その蜘蛛を捕食した。


うむ、これだ。この方法ならば、周囲に気付かれることはない。

私は知覚領域を拡大する。近くの土中に生き物の存在を認める。土を掘り進んで、獲物をさがす小型の哺乳類、モグラがいた。

さっそく憑依する。こ奴の持つ、昆虫やミミズ、地虫の類いを嗅ぎ取る能力は好都合だ。地虫を捕らえさせ、石棺の蓋の隙間から鼻で押し込ませる。ポトリと落ちた虫は、のたくり動いて、偽足に触れてたちまち同化された。


よし、これで良い。モグラにはいちいち私が指示する必要はない。虫を捕らえて、隙間から落とせ! これを小さな脳に動機付けするだけだ。せっせと働き始めたモグラを見ながら、私は次の行動を考え始めた。


 ◇ ◇ ◇


先程の会議で、あのAIが説明していた。この場所に参加者を集めた理由を、だ。

何と言っていた? 太陽黒点の活動が活発になり、通信が乱れる、だったか。

そうか、この星の文明は極めて低水準だ。自分の住む惑星を、守る術を持っていない。事実、主上が差し向けた小惑星を、回避する手段がなかったではないか。


科学技術が進んだ文明は、惑星そのものに重大な被害をもたらす外的要因、例えば飛来する小惑星を排除し、深宇宙から到達する有害放射線を(さえぎ)る手段を開発しているものだ。太陽フレアも然りだ。


時として燃え(さか)る太陽大気が磁力線に沿って吹き上がる紅炎(プロミネンス)、中でもその規模の大きなものは、大量の太陽風を爆発的に放出し、周辺惑星の磁場に届いて被害を及ぼすことがある。


奴らは、通信手段として電波を用いているから、この磁気嵐に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。そして、この太陽風に由来する荷電粒子(プラズマ)を防ぐための手段、例えば重力障壁をまだ開発できていないのだ。


奴らの船は重力波推進だ、だから私は当然ながらそれらの技術は開発済みだと思い込んでいた。

しかし、これはジローの母星の技術だった。我々のように高度に成熟した存在は、低位の文明を見誤ることがよくある。今回もそうだ。この星の文明がジローの母星のそれに届くには、まだ時間がかかるのだ。


主上が小惑星を差し向けたように、私は太陽フレアでこの星を舐めてやろう。

磁場を乱し、通信障害を起こすばかりではないぞ。奴らが地表に展開する電力網を、寸断することができるはずだ。強力な太陽風を吹きつけてやれば、惑星大気そのものを剥ぎ取り、地表を蹂躙する事もできるだろう。


これは小惑星と同じ、あくまでも自然現象に見えるはずだ。評議会も、事が起きてなお気付くまい。不慮(ふりょ)の災害により、奴らの計画は頓挫することになる。


太陽黒点付近の磁場に働きかけ、フレアを誘発させる必要がある。また噴き出した太陽風を正確にこの星に直撃させるためには、太陽の自転とこの惑星の公転周期を見定めて、正確に同調させる必要があるだろう。未熟な私の能力では、何度かの試行錯誤が必要だ。


モグラには、このまま仕事をさせよう。日々運べる虫の栄養素は微々たるものでも、一ヶ月もすれば依代は復活するだろう。そうすれば、あとは主上の思念体を待つのみだ。

せっかく再構築した依代をもろともに、この星を破壊せぬことだ。質量放出の程度には、注意せねば、な。


そう考えながら、私は太陽表面に向けて移動を始めた。

(続く)

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