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その6 光の波動

障壁を消したワタルと、そしてカズラが駆け寄ってきて、俺の健闘を称えてくれた。

「これでカークも、俺たちと並んだな。」実に嬉しそうな、ワタルの笑顔だ。

「並んだ? 何のことだ?」

「気付いていないのか? その光属性の剣のことだ。」


俺は、今も白く光る大剣の刀身に目をやった。「ああ、兄貴のお陰で、奴の闇の波動に対抗できた。」

すると、二人が顔を合わせて笑い出した。

カズラ兄貴が言う、「その光の波動は、もう俺じゃない。俺が込めた魔力は、戦いの途中で使い果たしたよ。」


「なんだと!」俺は、右手に持った大剣の刀身を、まじまじと見つめた。

「じゃあ、これは!」

「そうさ、お前自身の光の波動だよ。兄貴の波動に引き出されて、戦いの途中から自分で光の属性を駆使したんだろ。」ワタルは、嬉し気に俺の肩を抱く。

「これでカークも、光属性に目覚めたわけだ。オヤジから、光属性を学べば賢者も目指せると言われていたよな。」


「並んだ、とはそう言うことか。」俺は静かに納得した。

カズラ兄貴は、魔素量は少ないものの器用に光と闇の波動を駆使できる。ワタルやその妹サホは光も闇も強力で、それらが共鳴し合う賢者の領域にいる。そして今、俺も強力な闇属性に加えて、光の波動を体得しつつあるらしい。


「俺の魔素量では賢者は無理だが、お前は並みの獣人族より容量が大きい。光属性を鍛錬すれば、賢者も夢ではなさそうだな。」カズラ兄貴も俺の背中を叩いて、喜んでくれた。

「お前に戦いを挑んだこいつに、感謝しなければな。」兄貴はそう言って、倒れた呪術師を見下ろした。「さて、回復してやるか。こいつには、聞きたいことがある。」


 ◇ ◇ ◇


カズラ兄貴の回復魔法で、何とか息を吹き返した呪術師ゲラントは、素直に全てを白状した。

オタルナイの不埒(ふらち)な某治療士の依頼を受けて、カズラ兄貴を少々懲らしめる仕事をした。その後で、良心の呵責(かしゃく)もあってか酒が進み、泥酔したところを憑依されたらしい。


意思を(なか)ば乗っ取られながら、近隣の漁村に出向いてケント親方から情報収集をしたのは、ウォーゼルから聞かされた通りだった。その後はオタルナイに戻り、また操られるままに治療院の前で俺を待ち伏せて、悪意の棘を投げた。


そしてこの講堂に集う会議に辿り着いて、話を聞くうちに、この会合を妨害するよう命じられたのだと言う。

その間のゲラント自身の意識は、しっかり保たれていた。しかし指示には従わざるを得ず、そして最後には自爆攻撃を強要された。


「いくらお前の魔力が強かろうと、圧倒されるに決まっている。こちらには、魔族やその血を引く者が沢山いたのだ。」ゲラントを(さと)すのは、カズラ兄貴だ。

「それは分かっておりやした、無茶だと。私の隣には、魔王国の貴族様までおりましたからね。」


「フーライだな、私の部下だ。」そう言って、オーレス王弟が一歩前に出た。苦笑いしている。「あれは文官だ。頭は切れるが、魔法は不向きでな。まあ、最近の若い魔族はそんなものだ。魔法戦など経験しておらんのだよ。」

ゲラントを睨みつける。「その意味でも、お前の魔法はたいしたものだ。殺すには惜しいぞ、カークよ。お前と渡り合えるものなど、決して多くはないからな。」


ゲラントは、卑屈に笑ってみせた。「カークの旦那が出てきた時には、ああ私はここで死ぬのだなと思ったものです。」

「なかなかの威力だったぞ。私も苦戦したことを認めよう。それで、お前に取り憑いていたものは、どうしたのだ?」

「へい、あいつは私を捨て駒にしたのです。旦那方に殺されろ、とばかりに。」悔し気に呪術師は顔をゆがめる。

「気がつけば、あいつは私を離れ、私は一人で旦那と戦っていた訳でして、はい。」


今度はアバパールが、一歩前に出た。「カークよ、こいつを殺さなかったこと、礼を言うぞ。」ゲラントの顔をのぞき込んだ。「久しぶりだな、昔はゲールと名乗っていたが、」

貴方様(あなたさま)には、ご迷惑をかけるばっかりで、」神妙に答えるゲラント。

「何だ? 知り合いだったのか?」カズラ兄貴が不思議そうにアバパールを見た。


「こいつがお前たちに棘を投げたのが最近ならば、私が一番古い付き合いだろう。数年前に、こいつはルメナイ様のもとで働いていたのだ。」そう言ってアバパールは、ゲラントの肩をポンと叩く。「働くときは真面目でな、悪い奴ではないのだ。だが、魔族の角を揶揄(からか)われた時だったか、仲間内で喧嘩沙汰になったことがあってな。」


 ◇ ◇ ◇


幸いにして、奴のせいでこの会場で怪我をした者はいない。講堂の壁が少し、いや盛大に壊れたぐらいだ。雷に打たれたボットも、そろそろ内蔵するナノマシンによって復帰するだろう。

話し合いの結果、ゲラントはオーレス様の預かりとなった。同じ魔族同士、オーレス様ならばきっと奴の新たな道を考えて下さるに違いない。


奴のせいで、俺も光属性に目覚めたのだ。むしろ礼を言ってもいいくらいだと、俺は考えていた。

(カーク編 了)

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