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その5 反撃のカーク

俺は、大剣を大上段に据えた。接近戦で相手を威嚇するこの構えは、魔導士を相手とした時には、飛んでくる魔法攻撃を切り払うに最適な防御の型でもある。


ゲラントの眼が、一瞬 細くなった。すかさず俺は、大剣をブンと振り下ろす。眼の前で空中に火花が散り、魔素がその場に漂った。

呪術師が投げたのは、目には見えない悪意の棘。しかも、これも闇推進されていた。その棘を、気配を感じて切り払った俺だ。

二度目の棘は()らわない、奴の棘はすでに見切った。この剣技の達人を、舐めてもらっては困る。


「俺の棘を切り払った奴は初めてだ。()めてやろう。」今度は本当に驚いた顔のゲラントは、捨て台詞を吐くと風属性の飛翔魔法を巧みに操って、ふわりと俺から距離を置いた。

「棘がダメなら、ここは魔導士らしく戦わせてもらうとするか。」


飛び退(すさ)って、俺との距離をとったゲラントは、続けざまに強力な魔法を投げて寄こした。雷が、火球が、石礫が、闇の波動で加速されて殺到する。

そう、これが魔導士本来の戦い方、相手の剣が届かないところから魔法を投げて圧倒する戦法なのだ。


俺は、これを白く輝く大剣で切り払う。敵の魔法攻撃は、刀身に触れると速度を落とし、その向きを僅かに変える。これを避けるのは容易い。

俺の手前には、魔法がまとった闇の波動と刀身が宿した光の波動が触れるたびに、対消滅によって還元生成された魔素が濃厚に漂いはじめた。


「どうした? 当たらぬ魔法を投げても、私には勝てぬぞ!」余裕を見せて、ゲラントを(あざけ)ってやった。呪術師は、もはや必死の形相で連撃してくる。

だが、俺は自問する。このままでは(らち)が明かない。カズラ兄貴に励起してもらった光の波動も、対消滅によって徐々に減じつつあるからだ。


大剣が光の波動を失う前に、奴に突進してみるか。多少の被弾は覚悟の上だ。いや待て、オヤジはどうしたのだったか。そうだ、相手の魔法攻撃を制御して、反撃したのだ。ならば俺も、、、


賢者ではない俺だが、大剣にはカズラ兄貴の光の波動が宿っている。そして俺は、闇の波動をそれなりに使えるのだ。魔素量では魔族のゲラントに及ばないのは明らかだが、今この周囲は魔素で満ち満ちている。


俺は大剣を右手に掲げたまま、左手で闇の波動を()り始めた。

また、雷魔法(ライトニング)が飛んでくる。これを刀身で弾き、闇の波動で(つか)まえた。よし、出来たぞ!


もう一つの石礫、更にもう一つの火球を捉えた俺は、これらを刀身の反発を利用してゲラントに叩き返した。

自分が放った渾身の魔法を、三つまとめて投げ返されては、さしもの呪術師もこれを受け損ねてたたらを踏んだ。そこに突進した。


ゲラントに肉薄して、身を低くして魔法攻撃をかわすと、体を(ひね)(ざま)に俺は大きく尻尾を振り出す。その尾の先で、呪術師の頬を痛烈に引っ(ぱた)いた。

本来は魔族に従う眷属(けんぞく)たる獣人族、その獣人の尻尾で打たれることは、魔族に最大の侮辱を与えるものだ。

頬を打たれたゲラントは、その打撃と屈辱に我を忘れて立ちすくんだ。そして、その機会を俺は見過ごさない。


そのまま身を回しながら、棒立ちとなった奴に一撃を見舞った。もちろん薙ぎ払えば、呪術師は真っ二つだ。俺は、瞬時に持ち替えた大剣の柄頭(つかがしら)で、奴の脾腹(ひばら)を激しく突いたのだ。


「ぐえっ」と悲鳴にもつかぬ声を上げて、ゲラントは吹っ飛んだ。そしてピクリとも動かない。打たれた瞬間、そのあまりの衝撃に失神したのだ。死んではいないが、あばら骨の二三本は折れたかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


「見事だ!」タローの声が飛んできた。

声の出所は、講堂の後ろの入口。そこに小型ボットが浮かんでいた。講堂での異変を察知したタローが、ワタルの乗ってきた船から予備のボットを素早く発進させていたらしい。


「いつから、そこにいた?」

「お前が、攻勢に転じた頃からだな。」

「なんだ、重力子ビームで奴を吹き飛ばしてくれればよかったものを。」

「ふふん、その必要はないと判断して、成り行きを見守らせてもらったのだよ、竜騎士長殿。」


ボットは、フワフワと俺の前までやってきた。「やはりお前たちはジローの子供なのだな、二十年前の魔法戦を見るようだったぞ。」

(続く)

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