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その3 潜入の呪術師、或いはリムゾーンの驚愕

講堂の向こう側に、コの字に机を並べて発言者が着席している。銀色の四角いものが浮かび、正面の白い壁に画像を投影する。その後ろには、一列に並んだ参考人席、そして飛竜も二匹いる。これらが今日の会議の招集メンバーだった。


更にその後ろには見学者席が用意されており、今のところ埋まっているのは二十数名。その最後列の隅に、ひっそりと座るゲラントである。

「ここは気合を入れて、変装して来るべきだったか。」帽子で角を隠しただけの彼は、反省すること(しき)りである。


発言者席に座るのは治療院のカズラや弟のカーク、まともに顔を合わせれば、彼が棘を投げた魔族の男と知れるだろう。

しかも、(ほか)にも顔見知りがいたとは!

先日出向いていろいろ聞き込みをしたケント親方が参考人席に座っているばかりか、昔の彼が世話になったアバパールが、網元名代として今日の会議の招集者の一人だった。

ケント親方とは酒場で一度会っただけが、アバパールが彼を見れば一目で身バレする自信がある。仲間内で(いさか)いを起こした昔、彼を庇ってくれた兄貴分だったのだ。


今日の目的は、奴らの計画の進捗を知ることだ。しかし、会議の進行とともに、予想以上に事態が進展していることにゲラントは驚かされた。「これは、棘を投げて妨害できるものではない。」と頭の中で声がした。


そんな時だ、隣の男がゲラントに小声で話しかけてきた。

初対面だが、相手も魔族だ。歳も近いようだから、親近感を持たれたらしい。「いやはや、工場建設は極めて順調ですな。驚きました。」ニッコリと笑う。「ああ、これは失礼。私はあそこにおられる王弟オーレス様の配下でしてな、今日は鞄持(かばんも)ちというわけです。」


こいつ魔王国の貴族か、ゲラントはとりあえず笑顔を返しておくことにした。「私は、オタルナイから参りました、貴族様に名乗るほどの者ではありませんが、ゲールとお呼びください。」

魔王国では、魔力が地位を決めると聞く。貴族であれば、この男も強力な魔法の使い手であるに違いない。そうは見えないが、注意せねば。


「おおオタルナイ、噂に聞く港町ですな。一度行ってみたいと思っておりました。私は、魔王国を出たことがありませんで、今日が初めての出張というわけです。いやあ、今後の電設工事などには、魔法を駆使する我らが活躍できる場がある。嬉しいことです。」


貴族の男は異国の地に来て興奮しているのか、ゲラントとの会話を続けたがった。「貴方は、かなりの魔力の(つか)い手とお見受けします。ここにいるところを見れば、さては土木か電設の技術者ですな。」

「ええ、そんなところです。」と応えながら、ゲラントは悩ましい。そちらの知識はまるで持ち合わせがないのだ、まずいな、この話題を続けるわけにはいかない。


「私こそ、一度は魔王国に行ってみたい。魔王城は実に見事な建物と聞きますから、実際にこの眼で見たいものですな。」話題を替えてみた。そうしたら貴族の男は、すぐに乗ってきた。扱い易い奴だ、こいつ。


「おお、その城こそ私の職場ですぞ。是非一度、お訪ねください。最近は我が国も立憲君主制になりまして、建物の一部は一般公開されておりますよ。」貴族の男は、ますます口が滑らかだ。

「その魔王城の向かい側には、例の流れ星からこの星を守った記念碑も建っております。地下には敵の(むくろ)を収めたそうで、観光名所ですな。」


ゲラントの頭の中で、何かが(はじ)けた。

「敵の(むくろ)ですと?」

「おや、ご存知ない? あの流れ星をこの星に差し向けた張本人ですな。あの場所で賢者ジロー様を襲い、返り討ちにあったと伝えられております。」

「その話を詳しく聞くのだ!」ゲラントの頭の中で、大きな声が響く。


「貴方も私と同じくらいの年格好(としかっこう)だ、あの流星雨はご記憶でしょう?」貴族の男にそう言われて、ゲラントの脳裏に鮮烈な記憶が蘇る。今から十数年前、まだ子供だった頃にあの故郷で見上げた空に、恐ろしくも美しく広がった幾多の流れ星。この辺りの者たちは皆、あの天変地異に目を奪われたことだろう。


「この星を滅ぼそうとした者がおったのです。それを我ら魔族と人族の賢者が、生き残っていた(ただ)一人の魔人と、そして孤高の大型竜種たちと共に排除しました。その偉業を讃える記念碑が、実は討たれた敵の鎮魂でもあるのですな。」


 ◇ ◇ ◇


ゲラントに憑依したリムゾーンは、その会話を聞き驚愕した。それは、我らが主上ウルト・ゴール様ではないのか?

では、私との感覚共有が途切れたあの時に、主上は存在を失ったのだろうか? いいや、そんなはずはない! 我らが主上に限って、そんな事はあり得ない。


だが、確認しておくべきだ。魔王城の向かい側と言ったな。すぐにでも行かねばならぬ。ここはどうする? 憎きジローの子らは、そしてこの会議はどうしたものか。


奴らの計画は、予想外に進んでいた。もうこの魔族の男に棘を投げさせるだけでは、止めようもないことが判明した。

この男も用無しだ、ここでひと暴れさせて、奴らに始末させよう。


リムゾーンは、ゲラントの脳髄に攻撃の指示を残すと、するりとこの場を離れた。

(続く)

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