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その5 諜報の呪術師、或いはリムゾーンの決意

目立たぬようにゲラントは、憎き治療士カズラの周辺を洗い始めた。

すると最近になって、カズラがオタルナイに近い漁村に、治療のために足を運んでいたことを耳にした。カズラが往診に使う魔動機は、周囲に目立つ。その魔動機が海辺に向けて何度も飛んでいたのを、近所の住民から聞き込んだのだ。


さっそくその漁村を訪ねると、この村の漁師の親方ケントの息子が、最近オタルナイの治療士に救われた話を耳にした。その漁師ケントに、夜の酒場で接触することができたゲラントである。


「そうかい、あんたもカズラ先生の治療を受けたことがあるのかい。」逞しい体躯の漁師ケントは、人を疑う様子を見せず陽気に言葉を返してきた。

「ええ、それは素晴らしい回復魔法の腕前でした。私ども魔族に効果的な闇属性を操る治療士は、人族の町では珍しいのですよ。」

そう答えたゲラントは、また違和感を覚えた。「そうだ、俺は奴の闇属性の回復魔法(ヒール)に、この身を癒されたのだ。その俺が、どうして奴を憎んでいるのだ?」


そんなゲラントの心の葛藤には気付かぬまま、ケントはカズラを褒め称えた。「あの先生は、ただ痛みを緩和するだけではない。俺の息子に痛みの根源を取り除く処置をしてくれたのだ。」


聞けば、ケントの息子は急な腹痛を起こし、近所の治療士では手に負えなかったが、敬愛する飛竜様に相談したところカズラを連れて来てくれ、カズラはその場で問題の部位を切除してくれたのだそうな。

「息子の腹を割かずに、悪い部分を俺の目の前に取り出した。あの先生の治療魔法は、素晴らしいぞ。」ケントは、興奮を隠さない。それほどカズラの腕前は、見事だったのだろう。


そうしてケントと知り合ったカズラは、まとまった量の魚が欲しいと相談したらしい。ここから少し離れたウスケシの漁村に、魚を集めたいというのだ。

「俺たちが獲った魚を、船でそのままルメナイ網元のところに運んでいくことになった。良心的な価格で買ってくれると、約束してくれたものさ。」ケントは、上機嫌で商談の内容を教えてくれた。


「やれやれ、思い出したくない名前を聞くものだ。」ゲラントは、内心で舌打ちをしていた。数年前、まだ呪術師として仕事をする前に、彼はそのルメナイ網元の下で働いていたことがあったのだ。

恩義ある網元だったが、仲間内で喧嘩をして、こっぴどく叱られた。自分も悪かったのは分かっていたし、網元の副官アバパールも庇ってくれた。だが結果として、その漁村に居場所を失った彼は、その後 姿をくらましたのだ。


酔いが回り口が軽くなったケントは、さらに驚くべきことを告げた。

「何でも、夜空に見える星には、俺たちと同じような生き物が住んでいるそうな。そいつらに、俺たちが獲った魚をくれてやると、代わりに『火と熱のない光』とやらがもらえるんだとよ。日が暮れても、油を燃やさないで家の中を明るく保てて、臭いもないと言うぞ。」

「何だ、それは? そんなもの聞いたことがない。」ゲラントは、大いに不審に思ったものの我慢して話を聞いていた。いや、聞かねばならない気がしたのだ。


「しかも、その魚をな、鉄の箱に入れるんだとよ。そうすれば魚は腐らんらしい。だがな、俺の知り合いの鍛冶屋にその話をしたら、鼻で笑われたぞ。鉄で箱が作れるはずがないし、そもそも魚の十倍以上の値がするとな。」


 ◇ ◇ ◇


抹殺対象(ジロー)の影響で、この星系の未来が見通せなくなって久しい。

しかも、最近では奴が(もう)けた子らが関わる事象までもが見通せなくなって、この星系の未来は混沌(こんとん)としてきた。これは、我らが属する銀河の汚点(おてん)であると考えざるを得ないではないか。


そして今、またもや危険な兆候が察知できた。

私が操る魔族の男に調べさせたところでは、奴が本来所属していた母星と、星間交易を始めるらしいのだ。見通せない未来が、この恒星系外にまで波及しかねない。銀河にこれ以上の破綻が広がるのを、私は見逃すわけにはいかなかった。


この宙域の管理者に昇格したキュベレとその一派は、この無謀な試みを好意的に見ているようだ。だが、そうはさせない、この秩序を乱す行為を何としてでも私は阻止せねばならないのだ。


ジローのもう一人の子が、飛竜に乗ってあの街を訪れようとしている。また、棘を投げさせて、脅しておくとしよう。

そして、近々関係者が集まる会合が計画されていることも判明した。ここにもこの男を行かせて、調べさせよう。何なら、その場で破壊工作に及んでもいいではないか。

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