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その3 戸惑いの呪術師、或いはリムゾーンの狂信

頭がズキズキと痛む。

「少しばかり、飲み過ぎたか。」ゲラントは(つぶや)いた。

昨夜は、風呂にも入らず寝てしまった。まずは、悪い汗を流すことにしよう。風呂場に入った彼は、そこで昨夜の女の残り香を嗅いだ。


馴染みの商売女だった、これまで何度呼んでは抱いたことだろう。ゲラントのような汚れ仕事をする男にも優しく尽くしてくれる心根が、そして男好きのする顔も体も、ゲラントの好みなのだ。また、あの女を抱きたい。そのためには、憎きあの治療士が進める計画を、暴く必要がある。


ふと、ゲラントは違和感を覚える。

昨夜の俺は、あの人の好い治療士に悪意の棘を投げたことを、悔やんでいたのではなかったか? だが、今の俺はあの治療士を憎んでいる。何故だ?


戸惑いながらも彼は、酔いの残った頭で考えようとしてみたが、答えは出なかった。まあいい、ゲラントは体を洗いながら、今日これからの段取りを組み立て始める。

考えがまとまらない割には、今日の行動計画は次々に頭に浮かぶ。ゲラントには、それが不思議に思えた。


 ◇ ◇ ◇


この銀河で最古のウルト族、そして彼らに導かれた従属種たる我らクフロイ族は、共に今は姿を消した「神の種族」を信奉(しんぽう)していた。


神が敷いた進化の道筋。エネルギーから物質が生まれ、物質から生命が誕生し、その生命は自己組織化して複雑な生命体となり、ついには精神が宿る。

その精神は、更なる進化の果てに三次元的な肉体への依存から解き放たれ、真に時間を理解して五次元展開(エンライト)を果たすのだ。


過去から未来までがすっきりと見通せる、宇宙の進化の時間軸。その静謐(せいひつ)な美しさを、ウルト族は愛した。そしてこれこそが「神の種族」が求めた理想であると、この私クフロイ・リムゾーンも信じたのだ。


しかして、その約束された時空間を揺るがし、あまつさえ修復不能な影響を与えて時間軸を分岐させる暴挙。その引き金(トリガー)となる好ましからざる存在が、地球現地人ジローであった。


登場と共に、この星系に影響を及ぼし始めたこのジロー。滅びゆく運命にあった竜族に、失われつつある魔素を与えて存命させ、最初の時空震を誘発させた。この星系の未来が上書きされたのだ。


そして二度目の時空震は、既に滅んだと言ってよい魔人族の生き残りを助け、魔人の遺産を人類に引き継がせた事で引き起こされた。


業を煮やした主上ウルト・ゴール様が、評議会の星系管理者キュベレを一時的に退(しりぞ)け、地球に小惑星を差し向けた。衝突させて奴らを排除し、地球もろとも再構築(リセット)しようとしたのだ。


ところがジローは、未熟なAIと共に竜族と魔人の助力も得て、この破滅(はめつ)鉄槌(てっつい)を辛うじてだが回避して見せた。その健気(けなげ)な姿に、主上は奴らの(つたな)い能力を認め、生存をお許しになったのだ。

おお、慈悲深き主上を(あが)めよ! 我らの目的は、秩序の維持であって破壊ではないのだ。


当時、主上と高次元で感覚共有していた私は、今もそれを記憶している。だが主上が、抹殺対象(ジロー)だけは排除すべく動いた、その先が見えなくなった。共感が、突如として絶たれたからだ。それ以来、主上の行方は知れない。


展開(エンライト)を果たした者は、死とは無縁だ。周囲からは、主上が存在そのものを失ったとの声も聞こえたが、私は今もどこかで主上が高潔な魂を保っておられるはずと確信しているのだ。

(続く)

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