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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【カーク編】 第一章 敵の影
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その5 戦士の矜持

「あら、せっかく来てくれたのに、ごめんなさい。こんなところで立ち話しちゃって、入ってちょうだい。」ライラに家の中に招かれた。

俺たちはテーブルを囲む。そして、ライラが俺の顔をのぞき込んだ。「弟さんも治療院のお医者様なの? やっぱり腕利きで、同業者に憎まれていて、あいつに狙われたわけ?」

いやいや、いくら何でも俺は医者には見えんだろ。

「カークはな、サホロ騎士団の竜騎士長さ。魔法も打てる武芸の達人だ。」兄貴も苦笑いだ。


「そうか!」ライラは、合点がいったようだ。

「カズラの腹違いの兄弟、貴方はあのカレン校長先生の息子さんなんだわ!」

はい、その通りです。

「同い年の弟と妹が三人いるって、聞いたわね。私もサホロの学校では、カズラと同学年だったわ。でもこんないい男、見かけなかったけど?」

「ああ、俺は高等部には進まなかったからな。初等部の後はすぐに騎士団に入って、腕を磨いていた。」

「そうなんだ。同じ学校にいたら、私も惚れたかも、」そう言ってケラケラと笑う。この快活な娘が、心を病んでいるって? 俺には、とてもそうは思えないぞ。


ちらりと横を見ると、カズラ兄貴もライラの態度に驚いているようだ。「ライラ、今日は随分と調子が良さそうだな。」

「うん、飛竜様のお陰ね。あれ以来、私は真っ白のまま。あの後はずっと心が軽いのよ。」


俺たちにお茶を出してくれた母親が、そのままテーブルを囲む。「サホロから戻って、この()は寝込むことがなくなったの。家事も手伝えるようになって、親としても喜んでいるのよ。」

そうか、ビボウの荒療治が()いたのだ。この()が回復して、またカズラ兄貴のもとに戻れる日が来るのなら、それは兄貴にも俺にとっても嬉しい話だ。


「ライラだったな、まずは棘を抜いてもらった礼を言う。」俺は、ライラに頭を下げる。「この解呪とやらは、この里の誰もができることなのか?」

「ううん、この里の民は魔力が強いって言われるけど、解呪は闇の波動が特に強いものしかできないの。棘を投げたり抜いたりできるのは、この里でも数人かな?」彼女の横で、母親が頷いた。「この子は生まれつき、闇の波動が強いのよ。」


「棘を抜くのには、魔力が必要なのか?」兄貴もライラに聞いている、この分野は兄貴にとっても未知の世界らしいな。

「たいして魔素は使わない、(はず)すコツさえ分かっていればね。でも棘を投げるのは、魔素も使うし反動が来るから負担が大きいらしいわね。報酬が無いとやれない仕事よね。まあ、私はお金を貰ったとしても、やる気はないけどさ。」


ライラは、また俺の顔を見た。「お医者様ではないんだったら、カークは何でゲラントに棘を投げられたの。カズラの弟さんだから?」

「それが、分からんのだ。」兄貴は首を捻る。

「治療院には関係がない弟さんを呪うだなんて、変よね。」

「もしかしたら俺も、同業者に睨まれただけではないのかもしれんな。」兄貴が考え込んでいる。

「じゃあ、何だって言うの。」


俺は、奴の言葉を思い出していた。「俺が未来を見えなくする、と言った。缶詰工場はダメだとも言ったな。」

「ふーん、未来を見えなくするって、不思議な物言いよね。まるで未来が見えているのが、当たり前みたいな、」

「確かにな、考えてみれば変だよな。」俺は、何かに引っ掛かりを感じたが、その思いはまとまることなく消えてしまった。


「カズラもカークも、その缶詰工場の計画に関わっているのでしょう。治療院の客を取られたからじゃなくって、あいつは缶詰工場の計画そのものを嫌っていて、関係者に嫌がらせしているんじゃないかしら。」

「何のために、だ。缶詰と引き換えに、俺たちにはオヤジの母星の科学技術が手に入る。汎用ボットだって沢山もらえると言うし、電力網を整備して街や家々にあかりを灯すことができるんだぞ。」


「私たちの生活とかじゃない気がする、あいつが嫌がっているのは、缶詰が輸出される先のことなんじゃない。あなた方のお父様の星への影響ってことよ。」

そこで俺は思い出す。「そう言えば、他の星には関わるなとも言われたな。」

「それも、おかしいな。オヤジの母星との交易計画は、まだ(おおやけ)にされていない。そのゲラントが知っているのが不思議だし、もしどこかから漏れ聞いていたとしても、この星の住人ならば悪い話ではないはずだ。」


ライラがしばらく考えてから、慎重に口を開いた。「この星の住人なら、ね。そいつはゲラントのように見えて、実は違うのかもしれない。何かがおかしい気がする。」

そうだ、俺もそんな違和感を持ったのだ。奴は、本当にこの地に住む者なのだろうか。


「さあ、そろそろ戻る時間だ。お前も護衛隊の仕事があるだろ。」ここで兄貴が俺を急かせた。「今の話、続きはオヤジに相談してみようぜ。船の中から話せる。」

俺たちはライラの家を出た。魔動機に乗り込むカズラ兄貴と俺に、ライラが明るく手を振ってくれた。


あの()のお陰で、体調を取り戻せた俺だ。そして今、兄貴と俺の前に立ちはだかる奴がいる。

俺たちに喧嘩を売ると言うのか、面白い。姑息な手を使わず、堂々と正面から向かって来るがいい! 戦士たる俺の中で、闘志がムクムクと湧き上がってくる気がした。


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