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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【カーク編】 第一章 敵の影
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その4 呪いの棘、再び

そろそろ兄貴の治療院が見えてきたその時、俺の前に一人の男が立ち塞がった。

「旦那が、あそこのカズラ先生の弟さんでやすね?」

何者だ、この男? 獣人族に見える俺が、カズラ兄と兄弟だと、何故知っている?


両手をだらりと下げていて、その男は俺に向かってくる様子はない。

顔色の悪いその男が、ニタリと笑う。「旦那も、未来を見えなくするお一人だ。」

「それは、どういう意味だ!」

「いえ、旦那には分からない話です。だが、あの缶詰工場はいけませんねぇ。」


俺がそれに関わっているのも、知っているのだな。オヤジの昔の仲間に悪態をついたせいで、俺は缶詰工場の建設に関してオヤジから役割を言いつけられていた。

「何故、そんな事まで知っている!」俺が問い詰めると、その男は顔から笑いを消した。


「他の星に関わるのは、おやめなさい。」

ピシリと、体に痛みが走った。

何をされた? 奴には動きがなかった。だから俺には、反応のしようがなかった。駆け去っていくその男の後ろ姿を、俺はただ茫然として見送っていた。


 ◇ ◇ ◇ 


今夜は、酒が美味くない。

カズラ兄の嫁、獣人族ミルカの酌で杯を重ねる俺は、兄貴との会話を楽しみつつも、体の不調を感じていた。


ミルカは俺の母様と同郷で、俺も良く知っている。兄貴がこの獣人族の嫁を選んだ時、俺は大いに喜んだものだ。押し掛け女房だったようだが、婚約相手を失って気落ちする兄貴を見て、心が動かされたのだろう。情に厚い獣人族ならではと思っている。


そして聞けば、その心を病んで兄貴のもとを去った最初の恋人にも、復調の兆しがあるとの事だった。先日見かけた魔動機は、ウォーゼルの妻ビボウにその娘を治療してもらった帰り道だったそうだ。荒療治だったらしい、そんな嬉しい話を聞きながらも、俺の体は重かった。


「どうしたカーク、体調が悪いのか?」カズラ兄貴に、心配されてしまった。

「うむ、どうやらあの男に何かされたようだ。」俺は、この治療院のすぐ近くで遭遇した男との顛末を、兄貴に話して聞かせた。

兄は盃を置くと立ち上がり、俺に回復魔法(ヒール)をかけてくれた。光属性だ。俺は、回復魔法は闇属性しか使えない。そして俺は人族との混血(ミックス)だから、光属性にも反応する。兄貴の回復魔法は、暖かく俺の体に染みわたった。


「その男は、魔族ではなかったか?」と兄貴が聞いてきた。

「帽子を被っていたので判らないが、そうだったかもしれない。」

兄貴は、しばらく考え込んだ様子だったが、「そいつは、俺に悪意の棘を投げたのと同じ男かもしれん。とすればこの回復効果は一時的なものだ、棘が溶けるまでお前の不調は続くぞ。」と言う。そして兄貴は、自分も襲われて解呪してもらった話を披露してくれた。


そのうちにマリアが戻ってきた。

彼女は俺の体調を心配して、俺に酒を切り上げて早く寝るように勧め、そして添い寝をしてくれた。

今夜は、マリアを抱く気になれない。だが、傍にいて俺を心配してくれるこの嫁が、俺には堪らなく愛おしかった。


 ◇ ◇ ◇


翌日の朝、目覚めても俺の体調は思わしくなかった。

兄貴が、俺の顔色を見る。「これはどうやら、棘を打たれたのに間違いがないな。」そして渋る俺を、魔動機に押し込んだ。「出立は昼前なのだろう、小一時間でライラの里に行ける、解呪を頼もうぜ。」魔動機は、兄貴の指示でふわりと浮き上がった。


オタルナイから山を越えた南に、その魔族の里があった。

魔導機はその集落の中央に、静かに着地する。兄貴は何度もこの村を訪れているらしく、行き交う住人は魔動機に目を止めても、特に驚くことはない。


少し歩いてライラの実家だという家を訪ねると、庭先で洗濯物を干していた娘が兄貴を見てパッと笑顔になった。これがライラなのか。

「あらカズラ、突然現れたわね。予知できなかった。」声をかけてきた。

ん? ヨチ? 何のことだ?

「その方はカズラの兄弟ね、よく似てる。」

ん? 似てるだと? 獣人族に見えるだろう俺と、人族の兄貴が、似ているわけがないだろう。そんな俺の戸惑う顔を見て、兄貴がニヤリと笑った。「ライラはな、人を色で見るんだよ。俺とお前では、きっと色が似てるんだろ。」


「そう、二人とも深い緑色、よく似ているわよ。カズラは長男だって聞いたことがあるから、貴方は弟さんね。」そう言って、ライラは俺に近寄ってきた。「そして、ここに棘が刺さってる。」トントンと、指で俺の胸をつついた。「これを抜けばいいのかしら?」

ああ、この娘には悪意の棘とやらが見えるのだ。これが解呪師というやつか。


「やはり、そうか。どうやら俺に棘を投げたのと同じ奴らしい。ゲラントと言ったか。」兄貴が頷く。

「またあいつの仕業なの? まあいいわ、すぐに抜いてあげる。」ライラは俺の胸の当りに手を伸ばした。しばらくすると、ズウンと重い衝撃がきて、俺の体は軽くなった。


「抜けたわよ、色も元に戻った。」ニッと笑う綺麗な顔の裏側に、巧みな魔力と深い知性が感じられる。なんだか雰囲気がクレア母様に似ているな。

なるほど、これが兄貴の初恋の人なのだ。この娘なら、ミルカとは違った形で兄貴を支えてくれそうだ。俺はそう思った。(続く)

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