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その2 網元の診断

ルメナイ網元とは、そのあとで小一時間あまり、缶詰の材料にする魚の話をした。今日ここに来た目的は、これなのだ。

サケ、マス、サバ、そしてイワシが有望だということになって、それぞれの漁獲時期と水揚げ予測量などを詳しく教わることができた。


これで、缶詰工場の計画を、また一歩進めることができるな。今日の夜には、ボット会議でエドナ商会のヨアキム当主と話を詰めておこう。


用事が終わって帰り(ぎわ)に、俺は網元に聞いてみた。「今度、オヤジと会ったら何か伝えておきましょうか?」


ルメナイさんは、一瞬戸惑った様子を見せたが、「いや結構だ。だいいち君の親父殿は、私がここにいることを知るまいよ。」と言って苦笑いをして見せた。

「だが、こうして毎日楽しく妻や子供たち、そして仲間と過ごしているのは、君の親父殿と関わったせいなのだ。生き物として、今の私は幸せだよ。」


 ◇ ◇ ◇


ミルカと魔動機で帰路についた。

「今日のルメナイさん、何だか変だったよね。」と聞いてみたが、

「あら、そうかしら。相変わらず、頼りがいのある素敵なオジサマだったわ。可愛い子供も沢山いてさ、私 あの奥様が、あの家族が羨ましい。」と、ミルカは濡れた眼で俺を見つめてきた。


これは、今夜のお誘いかな。

まあいいさ、ライラに棘を抜いてもらったせいで、俺も元気を取り戻せたところだ。受けて立とうじゃないか。ヨアキム当主との打ち合わせは明日にしよう、と決めた俺だった。


 ◇ ◇ ◇


次の治療院が休みの日に、俺たちはまたライラの見舞いに出かけた。

もちろん前回の刺抜(とげぬ)きの礼を言ったから、話はそのままルメナイさんに及んだわけだった。「対処法が分かるかもしれないから、連れて来いと言われたぞ。」


「ふーん、人族なのに波動が見えるのね。そして、私が抜いた棘の跡が分かったなんて、ちょっと信じられない。会ってみたいわ、私。」ライラは、そう言った。闇属性の治療師として少しは知られた存在だった彼女としては、網元に興味を惹かれたみたいだ。

そしてそのまま、俺たちはルメナイ網元の部落を目指すことにした。今日のライラは、体調は悪くない。


漁村の朝は早い。魔導機を降りた俺たちが網本の家を訪ねると、ルメナイさんは一仕事(ひとしごと)を終えて帰宅して、例によって子供らと楽しげに遊んでいるところだった。

「カズラ、来たな。」いつもの声で、網元が歓迎してくれる。


「初めまして、ライラと申します。」そう言って顔を上げたライラは、網元の顔を見るなり驚いたように目を見開いた。彼女には、さっそく何かが見えたらしいな。


「ルメナイだ、カズラにはこの村に新しい仕事を持ってきてもらい、感謝している。なるほど、貴女(あなた)があの棘を抜いた解呪師(かいじゅし)と言うわけだ。」網元は、いつもの明るい笑顔をライラに向けると、「ほう、大きな闇属性の力を持っている。こちらが見透かされそうだ。」と言って笑った。


俺たちは、いつものように膝の上で子をあやす網元と車座になる。奥様が、座布団とお茶を運んでくれた。そしてしばらくそのまま、網元はライラを見つめていた。


「闇属性の波動が渦巻いている、そして揺らいでいるな。そうだ、あいつにもこの渦は見えた。これは貴女(あなた)の住む山里の民の特徴なのだろう。」

あいつ? それって、昔ルメナイさんのところにいたゲールのことだね。やっぱりあの里の民の闇属性には、何かの特徴があるのだ。


「揺らぎの原因は、小さな光の波動が干渉を起こしているためだ。本来は共鳴するべきものなのだが、強力な闇属性の渦がそれを拒絶しているように見える。」


その言葉に、ライラはハッと顔を上げた。

網元は、優しく微笑む。「おお、心当たりがあるようだな。浸食を受けたと感じたろう、そして闇の波動が揺らいでしまった。貴女(あなた)は無造作に光属性を手に入れようとして、今その弊害に苦しんでいる。」


「独学で取り組んだせいですね。私は、どうすればよかったのでしょう?」ライラの問いに、網元は少し言葉を選んだのか、()を置いた。

「貴女の持つ闇属性の強さを、考慮に入れるべきだったのだろう。多少の抵抗があっても、光の波動と共鳴するまで待たねばならなかった。しかも途中でやめてしまったから、光の波動の干渉が続いてしまっている。」


ライラは網元の話を聞いて、何かが腑に落ちたようだ。

「闇の波動が揺れ動いたことで、怖くなった私はそこで()めてしまいました。私には光属性が向いていないのだと、考えてしまったのです。」


「そうではないな、それが証拠に今でもそこで光の波動が揺れている。つまり根付いているのだ。」

ルメナイさんは抱いていた子を放し、立ち上がる。その逞しい両手を、励ますようにライラの肩に置いた。


「こうなれば強い光の波動を浴びることで、一気に闇の波動が共鳴するまで持っていくしかなかろうよ。」

(続く)


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