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その1 網元の家で

「誰かの恨みを買ったか?」ルメナイさんが、意外なことを言う。

「判りますか?」

「ああ、波動に傷跡がな。悪意の(とげ)を打たれたろう。」網元は心配そうに、俺の顔をのぞき込んだ。


俺は正直、驚いたぞ。

「見えるのですね! 網元は人族なのに! そうです、さっき魔族の知り合いに、その棘とやらを抜いてもらったばかりです。」

そう言いながら、俺たちは網元が座るそばに腰を下ろす。奥様が、俺たちに座布団を勧めてくれた。


「ふーん、優れた解呪士がいるのだな。」胡坐(あぐら)の上で幼子(おさなご)をあやしながら、網元が言った。

「ええ、昔からの知り合いでして、、、」話すと長くなるのだが、俺はライラの病気の経緯をかいつまんで説明する羽目になった。


 ◇ ◇ ◇


ルメナイ網元は、興味深そうに俺の話を聞いてくれた。

「光属性が禁忌(きんき)とはな! その者の闇属性に、相容(あいい)れない何かがあるのかもしれんな。」

「ええ俺も、そう考えているのですが、」


「その山里、オタルナイのその先にある部落と言ったな。実は私のところに、その里の者がいたことがあった。数年前になるか、名は何と言ったかな?」そう言って網元は、俺たちに茶を振舞(ふるま)う奥様に声をかけた。


「確か、ゲールと名乗りましたねぇ。」柔らかな声で、奥様が教えてくれた。

「そうそう、ゲールだったな。歳の頃は今のカズラと同じくらい。そこそこ働くし、根は悪い奴ではなかったが、喧嘩っ早くってな。よく他人を呪って悪意の(とげ)を投げ、そして自身も傷ついていた。だから私にはその傷跡に見覚えがあるのだよ。」


俺は、その名前に聞き覚えがありますよ。

数年前で俺の年齢と言うことは、今は二十代半ば、先日のあの男と合致するな。奴はここでも、あの偽名で通していたのだ。

「その人は、どうなりました?」

「ふん、ある時に強く叱ったら、そのまま姿を消してしまった。今はどうしているか、分からんよ。」

なるほど、そして今では悪名(あくみょう)高き呪術師様というわけか。


「そのライラという娘、お前の大切な人なのだろう。良かったら、今度ここに連れてこい。俺は波動が見えるから、治療の方法が助言できるかもしれん。ただし魔力はないから、治せはしないが、」


このルメナイさんの言葉だ、頼ってみようと俺は考えた。「有難うございます。ライラの体調が良い時を見計らって、近いうちに連れてこようと思います。」

「ああ、そうすればいい。」と網元は頷いた。


俺は、もう少しこの網元の力を知りたいと思ったのだ。

「俺の波動も、ルメナイさんには見えていますか?」と聞いてみる。

「ああ、カズラは光属性に加えて闇属性を使える、優れた治療士だな。そして、魔族ほど魔素量は多くない。」


へえー、それは凄いな。

俺は、魔法は使えても、波動や魔素を感じることが難しい。これは俺のオヤジと一緒だ。人族は、普通は感知できないはずなのだ。

ルメナイ網元、ただの人族ではないのかしら。この人のカリスマ性にも、何かの理由があるのかな? 俺はそんなことを思ったりした。


「カズラのご両親は人族。お父様は賢者様だけど、お母様は魔法が使えないものね。」

ありゃ、横でミルカが余計なことを言ってくれた。

賢者の息子であることは、実は触れて欲しくない俺なのだ。何故なら、驚かれたその次には決まって「その割には、カズラさんは魔力が大きくないのですねぇ。」と言われるのがオチだからだ。


そして、その言い(わけ)も決めている。

「魔素の汲み上げ能力は、母系遺伝だそうです。母が人族なので、俺は魔力に限りがあるのです。」これまで何度繰り返しただろう台詞(せりふ)だ。ここでまた同じ言い訳を繰り返して、俺は網元を見上げた。


と、ルメナイさんが、目を丸くしているではないか。

「これは驚いたな、カズラ。君の親父殿(おやじどの)は賢者なのか」

「あら、ルメナイさん知らなかったのね。カズラのお父様は、有名なジロー様。サホロの街の名士だわ。」ミルカが、また余計なことを言ってくれた。


ルメナイさんは、明らかに衝撃を受けていた。

「何と、賢者ジロー!」そう言った表情が、驚きから当惑に変わったようだ。


しばらくして、網元が聞いてきた。「魔族と獣人族の女性が、おられただろう?」

なんだ、ルメナイさんもオヤジを知っていたか。

「ああ、それはクレア母様(かあさま)とカレン母様(かあさま)ですね。実はもう一人 人族の奥さんがいて、それが俺の母なんです。」


ルメナイさんは、ただ黙って俺の話を聞いている。

「昔のオヤジはモテたらしいです。どこかでオヤジが、網元とお会いしてましたか?」


しばらく無言だったルメナイさんだ。

そして、思い出すように、「ああ、今から十数年前になるのか、ちょっとしたことがあってね。そうか、そうだったのか。」


そう言ったきり、この話はお(しま)いになった。

(続く)

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