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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
【カズラ編】 第一章 オタルナイの治療院
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その4 虹色のライラ

「そのゲール、いや本当はゲラントというのか。何故そんな、すぐに分かる偽名を使う? そもそも、この山里の民であることを隠さなかったのは何故だ?」

「たぶん脅しだわ、ここは呪いで有名だもの。あなた、誰かから恨まれていない?」笑うのをやめたライラが、今度は小さな声で言った。


「あの悪意の赤い(とげ)は、そのうちに溶けてしまう。体調の悪さも、あと何日かで(おさ)まったはずよ。だからこれは脅し、何かの警告よ。ゲラントは、何か言わなかった?」


「俺を、半年で治療院を流行らせた名医だと、お陰で潰れそうな町医者もいるとか言っていたな。」俺は、あの時の男の顔を思い出していた。

「そうそう、帰る間際(まぎわ)には、その辺にいる町医者は商売上がったりだ、とも言ったかな。」


「ほらほら、それよ! きっとお客を取られた町医者が、ゲラントを使ったの。」

「まさか? 患者を(いや)す医者が、そんなことをするのか?」

「お医者だって商売だもの、回復魔法が少し使えるだけの、効くのかどうかもわからない薬草を患者に渡して儲けている奴らが、きっとカズラを邪魔に思ったのね。」


ふーむ、世の中は世知辛(せちがら)い。

「カズラは、真面目(まじめ)で正直、まっすぐだもんね。賢者ジロー様の、十五人いる子供の長男だからさ。そこがいいとこ、なんだけど。」ミルカが、そう言ってくれたけどな。


そうそう、今日は見舞いに来たことを、俺はようやく思い出す。

「ライラ、調子はどうなんだ?」

「あいかわらず虹色よ。」と答えるライラ。

「虹色ってなに?」ミルカも、意味が分からない。


「昔の私は、真っ白だった。カズラは深い緑色で、ミルカはふわっとした桃色。」ああ、人を色彩で見る、いつものライラの癖の話だ。

「光属性の悪戯(いたずら)をしてから、私の色が変わったの。変わったというよりは、定まらなくなった感じかな。だから虹色。」ライラは、そこまで言ってため息をついた。


「いつも揺れ動いている。今日は白っぽいから、まだこうして話せるけど、黒が勝ってくれば落ち込んでしまう。沢山の色が交じり合って流れるの。だから虹色。」そうか、ライラは自分の病状も、色で見えているのだ。


「たくさん笑ったら、何だか疲れちゃった。私、もう寝るわ。今日は来てくれて有難う。」もぞもぞと布団を手繰り寄せると、ライラはそのまま布団をかぶってしまった。涙を隠そうとしたのかもしれない、相変わらず、感情の波が大きいみたいだ。


「また来るよ。」俺は、そう言葉を投げて、ライラの部屋を出た。


 ◇ ◇ ◇


治療院がお休みの今日は、もう一カ所、行きたいところがあった。

ライラに、赤い棘とやらを抜いてもらったことだしな。俺は、今度はオタルナイの反対側にある漁村を目指すことにした。


海辺(うみべ)の砂浜に魔動機を降ろす。目の前にある質素な建物が、この(あた)りの漁師(りょうし)(たば)ねる網元、俺が尊敬するルメナイさんの家だ。

俺より(とお)くらい年上だろうか、まだ若いのにその見識と指導力で、既にこの漁村の名士の一人だ。


魚を()る名人で、その手を海の水につけると魚がいる場所が分かるのだと、噂を聞いたことがある。真っ黒に日焼けした逞しい体、頭がよく、力持ちで、それなのに謙虚な人だ。

若くして妻帯したのか、可愛い子供が沢山いる。全力で人生を楽しんでいる、そんな感じのする若大将だ。


欠点と言えば、機械が嫌いなことだな。打ち合わせに便利だからと、ボットを置かせて欲しいと頼んでも、(いや)だと断られた。

話があるなら、会いに来い!と言う。会って、顔を見て話せば楽しいだろうというのだ。


まあ、確かにそうさ。でも忙しい時は、ボットで話してもいいじゃないか。あの様子では、これから俺たちで普及させようとしている「熱のない灯り」も、()らないと断られるかも知れないな。


オヤジの昔の仲間が、この星に便利な機械を持ってきてくれるという。まずは今、限られた数しかない汎用ボットを沢山だ。そして次は「熱のない灯り」、つまりオヤジの母星の技術で量産された電力で(とも)る面発光体を、俺たちに提供してくれるのだ。


代わりに俺たちが差し出すのが、魚の缶詰だ。星間交易とか言うらしい。この村の暮らし向きが良くなるのならと、ルメナイさんは二つ返事で協力を申し出てくれた。その打ち合わせのために、ボットを使おうと説得しているんだけどな。


家の中では、ルメナイさんが子供らと遊んでいるところだった。「おう、来たなカズラ!」陽気に声をかけてくれたが、俺を見て変な顔をした。

「どうした? 治りかけているようだが、誰かの恨みを買ったか?」

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