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続々)生き物係ですが、船が難破して辿り着いたこの星を守り抜く覚悟です。  作者: 培尾舛雄
第三章 躍進! マーコット商会
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その6 ブリキの缶詰

マイカとマーコット姉さんを船に乗せて、俺はこの二日間サホロの街に里帰りしている。クレア母さんが、マイカの魔法習得の進捗度合いを見たいと言ったのだし、何やら教えておくこともあるらしい。マーコット姉さんと積もる話もあるようだ。


その二人を母さんに預けて、俺は久し振りに婚約者のアカネと夕食を共にして、それからはこれも久し振りのアカネとの大人の時間だ。

それなのに、アカネの奴め。行為が終わったそばから、俺の腕の中で鉄の精錬について、話し出す始末だ。


「大規模に鉄を得るために、原料には鉄鉱石を使うわ。今まで使っていた砂鉄で『たたら製鉄』じゃあ、タローの言うブリキ製造には不向きなの。製鉄は、全く新しい産業に変貌することになる。」


ああ、そうですか。

俺はもっと、お前との余韻に浸っていたい。何ならもう一戦、お前が女に変貌するのが見たいと思っているのに、相変わらずの「のめり込み」具合ですこと。アカネは、気になったことは突き詰めねば気が済まない、理系女子(りけじょ)なのだ。


一ヶ月ほど前のあの会議の後も、アカネはタローと、そしてこの星を周回する宇宙船にいたオヤジの仲間達と、打ち合わせを重ねたらしい。どうやら金属精錬の計画は、この星ではアカネを中心に回ることになるようだ。


「オルとコリーンは物理学者なの、何でも知ってて凄いのよ、あの人たち。でね、もう行ってしまったけれど、この次は母星から金属応用工学の専門家を連れて来てくれるって。私、ワクワクしちゃう!」

そうですか、それは良かったですね。


「金属精錬には、彼らの最新の技術を使うわ。融合炉からの豊富なエネルギーに支えられた強力な重力場による比重分離、分子篩(ぶんしふるい)電気製錬法(でんきせいれんほう)よ。この方法だと、鉄のみならずその他の金属も、極めて純度よく精錬できる。合金だって自由自在だわ。」

そんなアカネの声を腕の中で聞きながら、俺はいつしか眠りに落ちていた。


 ◇ ◇ ◇


翌日は、オタルナイから魔動機で来ていたカズラ兄を入れて、オヤジとタローとの打ち合わせだ。

俺が搭載艇なのに、兄貴がなぜ魔動機かって? 兄の治療院があるオタルナイは、おれの住むウスケシよりはサホロに近い。そこで二隻目の船は遠いところにいる俺が使わせてもらうことになり、カズラ兄は小型ボットを同化させた魔動機を使うことになったのだ。


搭載艇はこの星に二隻しかないが、魔人の遺産である魔動機は、今も魔人の里に沢山眠っている。二隻目の船にも大・中・小型の探査ボットが沢山積まれていたから、同化させて動かせる魔動機は増えた。


だから、サホロ以外に住んでいる俺のオヤジの知り合いや子供達は、全てこの魔動機を使っていた。これはまあ、オヤジの血筋を引く者の特権というやつだ。


そのカズラ兄は、今回はウスケシの大店(おおだな)エドナ商会の当主ヨアキムさんを伴っている。この人は、サホロの街にマグロの刺身を普及した人として有名だ。商人(あきんど)のくせに、包丁捌(ほうちょうさば)きが滅法巧(めっぽううま)い。そして魚にも詳しい、あっ、これは商売柄か。


何でも、ウスケシから程近い漁村に、実力ある若き網元がいるという。魚を獲る天才で、しかも周囲からの人望も厚く、エドナ商会が魚を仕入れる得意先の一つ、ルメナイさんと言う方だそうな。


カズラ兄とヨアキムさんは、今回の缶詰の原料をこのルメナイ網元から調達してはどうかとの提案をオヤジに持ってきた。そうなると缶詰工場も、この網元の地元に建設することになるだろうな。


俺の住むウスケシだって海に面しているし、近くには漁村もある。実は俺は、缶詰工場をウスケシに誘致して、マーコット商会の仕事にできればと考えていたのだ。どうやらこれは、経営感覚(センス)のあるカズラ兄に先を越されたようだ。


まあいいさ、いずれ缶詰工場は一カ所では足りなくなると俺は読んでいる。その時になったら二番目の工場を、こちらに誘致すればいいことだ。


俺は、サホロの街ではオヤジの四番目の子供で三男だ。ガキの頃から兄たちが失敗して親から叱られるのを見ていて、俺は学んできた。下の子は、そうして賢く振舞うことを覚えるものさ。


この缶詰工場だって、最初はいろいろ不具合もあるだろう。第一工場は、せいぜいカズラ兄に頑張ってもらい、問題点を潰し終わったところで第二工場は俺がウスケシで手を上げるとするか。


それに、俺にはマーコット商会のために、どうしても取りたい仕事があったのだ。

(続く)

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