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その4 魔人の血

大変なことが判明した。マイカには、魔人の血が半分流れていた。

いや、そもそも魔族は、人族と魔人が交わって生まれたんだよな。てことは魔人の血は半分以上かな? いや、そんな細かなことはどうでもいいか。


マイカの魔素の量、無意識にやっている未来予知だとか読心術。この頃は自重しているようだけどあの幽体離脱だって、みんなこの魔人の血がなせる業だったのか。俺はその日の夜に、両親にボット経由で(こと)次第(しだい)を話した。


「スルビウト様にご報告すべきでしょう。」これはクレア母様だ。

「そうか、それでお前はその()(めと)るのか? アカネさんには、しっかり話を通しておけよ!」これはオヤジ、だからそれは気が早いんだって!


ともかく、次の治療院が休みの日に関係者で集まることにした。

関係者は、魔族が中心となる。そして俺の住むウスケシは、人族の街だ。魔族もそして獣人族も少しは住んでいるけど、方々(ほうぼう)から魔族が集まって騒ぎを起こしたくない。


まして、俺の治療院上空に搭載艇や魔動機が何機も浮かんだりすれば、目立ち過ぎる。だったら地理的に真ん中にある、ウィル族長の里に集まろう。ここにはスルビウト様もいる。他の場所にご老体のスルビウト様にご足労いただくのは、避けるべきだと意見が一致した。


 ◇ ◇ ◇


三日後、俺は目立たぬ時間帯に、搭載艇でウスケシの街を出発した。魔動機ではウィル族長の里は少し遠すぎて、時間がかかり過ぎるからだ。マイカ、マーコット姉さん、そして妹のサホが一緒だった。


オヤジも、もう一機ある搭載艇で来る。ウィル族長の邸宅では船を置くには狭すぎるからと、皆で落ち合うのは南の里の近くにある広場になった。()しくもこの場所は、あの群竜の迎撃戦が行われたところなのだという。


俺の船からは四人、オヤジの船からはオヤジとクレア母様、そして魔王国から来たキラ侯爵家の魔動機からは、貫録たっぷりにお婆様が、キラ家のホムを従えて現れた。付き人がいないのは、今日は私的案件(プライベート)と言う訳だな。


そして独特の姿形(シルエット)はウィル族長の魔人号、中からは魔人スルビウト様、そしてウィル族長とホム爺が降りてきた。


当然のように、魔人スルビウト様がこの場を仕切る。「皆、ご苦労。」

オヤジを除くすべてが(ひざまず)いた。俺も、サホもだ。だってクレア母様がそうしているからな。

オヤジは、立ったままだ。敬意は表するが、跪くことはない。だって、オヤジだけ人族だ。魔人の放つ威圧(オーラ)をあまり感じないらしい。そうそうオヤジは、魔素も感じることができない。それで良く賢者をやってるよね。


「おお、お前がマイカだね。魔人の血を感じるよ。」そう言って近寄ったスルビウト様は、マイカを抱きしめた。魔人の血とやらが呼び合うのかな。マイカは嫌な様子も見せず、初対面の婆様におとなしく抱かれている。

スルビウト様、まったく変わらないな。俺が子供の頃に二度ほど会ったきりだけど、皺が一本くらい増えたかな。


そして婆ちゃん、魔王国の皇太后様が、マーコット姉さんの手を取る。「生きていたのですね、二十年ぶりでしょうか。家出して、その後は消息不明と聞いていましたが、」

大姉様(おおねえさま)、お久しぶりです。」マーコット姉さんは、神妙に挨拶を返す。

「その傷はどうしたのです。いろいろ苦労したようですね。」歳は離れているが、そこは姉妹だ。いろいろ積もる話もあるよね。


 ◇ ◇ ◇


船はこの場所に置いて、皆で魔人号に乗りこんで移動して、今夜はウィル族長の屋敷で宴会となった。

俺は、久し振りにゼーレさんやスセリ姉さんと会えて嬉しかった。酒を飲み、美味い料理を食べながら、俺たちは治療院の運営方針など大いに意見交換した。


マイカは、皆から大歓迎された。魔人の血を受け継ぎ、そしてオヤジの母星の医療技術で健康を取り戻した彼女の可愛らしさと美しさは、集まった皆を魅了したようだ。


今宵の宴の主役の一皿(メインディッシュ)、今や魔王国キラ侯爵家の名産品となった群竜の肉と卵を使った料理が出された。ウスケシでも高級食材として知られている、高価だけどね。


スルビウト様が、これをマイカやマーコット姉さんに勧めている。「それ食え! 旨いぞえ、これで儂は長生きしておるのじゃ。」

だが、マーコット姉さんがそれを固辞している。見かねて俺は、スルビウト様に耳打ちをした。「群竜は、マイカの父様(ととさま)(かたき)なのです。」


すると魔人の婆様は、ニッと笑った。

「ふん、(かたき)と思うならばこそ、食べて退治してやればよいではないか。もう、昔を引きずるでない。マイカの中に、その魔人の血は生きておる。」


姉さんは、魔人の言葉にハッとしたようだ。

おずおずと卵料理に手を伸ばす。匙で一口食べてみて、小さな声で(つぶや)いた。「何だい、美味(おいし)いじゃないか。こんなことなら、もっと早くに食べて、あの人を供養するんだったねぇ。」


 ◇ ◇ ◇


宴の後で、姉さんが俺とサホのところに来て言った。「私の頬の傷、治せるって言ったね。今度、治療を頼もうか。」

うん、姉さんも吹っ切れたみたいだね。俺も嬉しいよ。

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