十三遊戯
2042年
ある一部屋に一人の女性が入ってくる。その女性は大きな椅子に座り、目の前に複数のモニターを出現させた。
「失礼します。最上真琴ただいま参りました」
モニターに映る13人に対して最上真琴は軽い挨拶をした。
そう…彼女は株式会社有頂天を運営する一族、最上家の人間であり、目の前に映る13人も真琴同様にその一族の血を宿す者達である。普段は大学に通う学生であるが、今日は自身の祖父である有頂天現会長である最上章からこの会議の出席を命じられていた。
『ふむ、真琴が来たか。予定よりも早いが全員が集まったことじゃし、現時刻をもって第38回『血闘会議』始めようかのう』
今回の会議の主催者である有頂天会長、最上章がモニター映る真琴を含めた13人に対してそう宣言した。
血闘会議。最上家が定期的行うギャンブル性を含んだ家族ゲーム…通称『血闘ゲーム』の内容決める会議である。この会議には現会長と血縁関係のある人物のみが出席することが許されている。
『やっとか爺さん。いい加減、俺達を召集した理由を話してくれよ。俺に会社を継がせる気になったのなら大歓迎だぞ』
最上大河。章にとっては弟の孫、大甥に当たる存在であり、有頂天の本部長でもある。有頂天に入社してまもなくに多くの実績を上げたことを真琴の父、現社長最上海斗に認められた人物であり、礼儀を弁えないその不遜な態度を暗黙の了解で認められている。
だが、その大河の言動に誰もが静観しているわけではなかった。
『…おい、さっきから黙って聞いていれば…あまりいい気になるなよ』
最上健二。現会長の息子であり、真琴の叔父にあたる人物である。真琴が出席する前から自身の父である章への無礼な態度を取り続けていた大河に我慢ならなくなったのかモニター越しに殺気を飛ばし続けていた。
『あぁ、すいません常務、あまりの存在感がなさすぎて気付きませんでした。仕事でももう少し存在感を出していただければ気付きやすくなるかと』
『小僧が…』
薄ら笑いを浮かべていた大河は健二の怒りに対して煽りで答えた。このままで場が荒れる…そう考えた真琴は場の仲裁の求める意味を込めて自身の父である現社長である最上海斗のモニターを見つめた。たが、海斗はまるで興味がないと言わんばかりに態度でその場を静観していた。
『お主らのやり取りを見ているのも悪くはないが今回はそこまでにしてもらおうかのう。続きは会議後に好きなだけやれば良かろう。何せ全員嫌でも争う事になるのだからな』
何故か楽しげな章は意味深な言葉と共にその場を制した。それによって全員の注目がその意味ありげな発言に集まることとなった。
「お祖父様、今の発言から察するに今回の血闘ゲームはここにいる全員の参加を推奨されているということでよろしいですか?」
基本、血闘会議で決まったゲームへの参加は各々の自由だが、一族の長が全員参加と言っているゲームを断れる人間はこの場にはいない。つまり、章が参加を促せばそれは事実上の強制参加である。
しかし、章は今の今まで誰かを強制的にゲームに参加させたことはない。真琴の今の質問はその点に関して違和感を持っての質問だった。
『ふむ、実はのう…』
『待て爺さん、俺が先に当ててやる。今回の爺さん気合いのはいり方から察するに自身の進退に関わるゲームを計画してるんじゃねぇのか?…例えば次期会長を決めるゲームとかなぁ?』
『『「!?」』』
説明を始める章の声を遮るように大河はそう話し始めた。その内容を聞いた一部の人物が取り乱し始めたが、章の顔は相変わらずニヤニヤとしていた。そして…このニヤつきが大河の発言への肯定であるとこの場の全員が確信した。
『ザッツライトじゃ。相変わらず勘のいい奴じゃな』
参った参ったとケラケラと声を上げて笑う章に一同が呆れていた。そんな中、章の娘であり真琴の叔母にあたる最上明日香は何かを思い出したような顔になっていた。
『ゲームの詳細は存じ上げませんが、今回お父様が開発部門と極秘で進めていたプロジェクト、サイバーヘブンの大規模アップデートと関係があると考えてもよろしいですねお父様?』
心当たりがあったのか明日香は自身の父である章にそんな風に問いかける。
『それも正解じゃ。明日香の情報力の高さも流石じゃな』
明日香の質問にも章は肯定で答えた。そして、何故明日香が極秘の情報を知っているのかという疑問を抱く人間はこの場にはいなかった。情報戦においての明日香の能力の高さは社内外において有名だからだ。
『今回のゲーム舞台はサイバーヘブン全体で行われる。制限時間も存在しない。クリア者が出るまで続ける。ゲームの勝った人物に…その場でワシの持つ地位と権利、そして全財産を継承を約束する』
今この世界の経済と法律は株式会社有頂天の運営するサイバーヘブンを中心となって回っている。その運営権限を得るという事は世界の王となる事を意味している。つまり、今から始まるゲームによって今後の世界の行く末が決まるという事だ。
『そのゲームをワシは『十三遊戯』と呼ぶ事にした。…さぁゲームを始めようかのう。皆の衆』
王を決める戦いが今始まった。