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肆話・・・。

飯テロ注意?

 男は気持ちを落ち着けると、身に着けていた外行の服を脱ぎ捨てる。


 下着姿ろなった男は、ベッドへと近づいた。ベッドの上には、綺麗に畳まれたスウェットの上下が置かれている。それは、男が普段から愛用している室内着であった。


 男がそれに着替えようと手に取ると、服からは柔軟剤の香りが漂ってくる。ふんわりとした肌触りとなったそれに男が着替えている最中に、キッチンからは『チンッ』という音が聞こえてくる。


 その音を耳した男は自室である洋室の扉を、キィ・・・と、軋む音を立てながら開く・・・。男が電灯を灯したはずのそこは、再び闇に閉ざされてしまっていた。


 闇の中、食卓からはコトリ・・・コトリと、音がする。


 男はその音を聞くと、ごくりと唾を飲み込む。そこに何があるのか・・・男が気になるのはそれだけであった。


 暗い部屋の中を迷うことなく食卓へと向かうと、男は椅子へと腰かけた。


 それを待って居たのだろう。男が椅子へと座った瞬間、突然に部屋の明かりが灯された。闇に慣れていた男の眼に、その明かりは眩し過ぎたのだろう。男は眼を細め、下へと・・・食卓の上へと眼を向けてしまった。


 そこには、何種類からの食器が並べられていた。


 白い、蟻の玉子のような物が盛られた茶碗・・・そこからは湯気がゆらゆらと立っていた。それに、引きちぎられた上で細かく切り刻まれた無残な牛の肉、それを肉団子のように丸め叩きつけ中に籠った空気を抜き、さらには業火に晒すという残酷な手順で踏み作られた、焼かれた肉塊・・・その肉塊の中には、さらに残酷・・・いや、無残とも云うべき白くトロリとしか物が封じられていた。


 それは、母が己の子供の為にその体内で造り出した母乳を搾り取り・・・本来、その母乳を享受すべき存在である子供の腹を裂き、引き吊り出された胃袋を使い作り出されたという、まさに見る者にとっては怨念の塊のような・・・そんな、白い何かであった。


 それを・・・それを、その母の物だったかもしれない肉の中・・・胎内に封じ込めた肉塊・・・。


 肉塊の隣には、緑色をした小さな木のようなものと、おもちゃにされてしまったのか・・・花びらのような形に切られてしまった赤い・・・いや、オレンジ色の物が皿に盛られていた。


 その皿の側、小さな皿には水に塗れた引き千切られた葉っぱが数枚・・・その上には赤く、その中からじゅくじゅくとした膿のような何かを染み出させる、三日月のような形に切られた何かが置かれている。


 さらに、その隣・・・そこにあったものは、泥のような見た目をした汁であった。


 泥の中には、緑色をした薄い葉っぱのような物・・・それに、四角く断たれた白い塊が浮かんでいる。さらに良く見ると、他にも輪切りに切り刻まれた緑色や白色をした物も浮かんでいるようだ。


 男はその余りにもな光景に、生唾を飲み込む。男一人しか居ない、そんな空間に、その音はやけにうるさく聞こえた。


 覚悟を決めたのか、男はその皿・・・生贄達の前に置かれた二本の棒をその手に取り、勢いよく眼の前にある肉塊へと突き立てようとした・・・しかし――。



 ――バンッ! バンッ! バチンッ・・・・・・ガタガタガタガタガタッ。



 部屋の空気が震えた・・・そう錯覚してしまう程の、音が部屋中に鳴り響く。現象は音だけに留まらず、食卓の向こう・・・男が座る椅子の対となる椅子までもがガタガタと揺れ出した。


 ビクッ・・・男はその身体を震わせる。


 怖かったのだ・・・その音を鳴らす何者か、その怒りが・・・。


 男は伸ばした手を手元へと戻し、恐る恐るその手を合わせた。



「・・・・・・・・・・・・いただきます」



 そう言うと、男は小さく頭を下げる。


 その一言・・・たった、それだけであれほど激しく鳴り響いていたラップ音はピタリと止み、ガタガタと揺れていた椅子も平静と取り戻した。


 良かった――男は、背中に浮かんだ冷や汗を感じながら、胸を撫で下ろした。


 もし、間違った対応をしていたら、男・・・いや、眼の前にある皿がどうなっていたか・・・それを考えると、ただ純粋に怖かったのだ。


 男は手にした二本の棒を構え直すと、再びそれを肉塊へと突き立てる。それは柔らかかった・・・棒の突き刺さった部分からは、じんわりと透明な油のような物が滲み出していた。


 器用に棒を使い、男は肉塊から一口分だけを切り分ける。すると、その切り口からはトロリと白い白濁した物が流れ出してきた。


 男はそれを切り分けた肉塊を棒で挟むと、それを口の中へと入れる。口の中で噛み千切ると、肉塊からはじゅわりと油と香り、そして白い何かが絡み合い・・・男の口内を蹂躙する。


 もう、止まることは出来ない・・・これが、人では無い何者か・・・その罠であろうと知ったことでは無い。男は己の内から感じる飢餓感に逆らうこともなく、眼の前にある物を食らい尽くす。


 食いたい・・・クイたい・・・クワセロ・・・クワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロクワセロッ!!!!


 男が止まることは無かった。


 ただ、獣のように喰らい続ける。肉塊を噛み、流れでる油を飲み込む・・・すかさず、白い粒を口の中へと掻き込む。口の中に溢れる油に堪え切れなくなれば、泥のような汁を啜り引き千切られた葉を喰らう。


 繰り返す、繰り返す、繰り返す・・・喰らい、咀嚼し、飲み込む。死にたい・・・そう常日頃から考える男の姿とは思えぬ、生を強く感じさせる行動であった。



 ――コトリ・・・。



 音がする。


 男がそちらへと眼を向けると、そこには柑橘類のような香りが仄かにする水が入ったコップが置かれていた。それを手に取ると、男は一気に飲み干す。


 誰が置いたかもわからぬそれを飲み干すことに、迷いなど無い。例えそこに毒が入っていようと、今、男が欲しかった物なのだ。



「・・・ふぅ」



 水滴の浮いたコップを、男は食卓の上へと戻す。


 その頃には皿は全て空になっていた。


 男がその腹へと収めてしまっていたのだ。男の為に犠牲となってしまったそれらの為に、男はその手を合わせ、その魂の安寧を願う。



「ご馳走様でした」



 心霊物件に住む男だからこそ・・・霊魂というものを肌で感じ生きる男だからこそ・・・その一言には、様々な感謝の念が込められていたのであった。

チーズインハンバーグ、美味しいですよね。

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