漫才 『怖い話』
*ゲラゲラコンテスト2の応募用脚本です!
ボケ
「オッレで~す、オレオレ!」
ツッコミ
「いや、挨拶しないのかよ! どこの詐欺師だ、お前!」
ボケ
「お前の相方に決まってるだろ~」
ツッコミ
「はい、イラッと入りました~。で、いきなりどうしたの?」
ボケ
「実はさ、この間、ものすごく怖いことがあったわけ」
ツッコミ
「どうせ勘違いだろ?」
ボケ
「今回の奴はマジで怖いんだって! オレの家は、オレ、父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃん、じいちゃんの五人家族だったんだけど、今はもう、一人いなくてさ」
ツッコミ
「そうなのか、知らなかったよ」
ボケ
「うん、一年前にな……オレってほら、実家に住んでるだろ? だから遅くまで飲んで帰った夜は、みんなを起こしちゃ悪いと思って物音を立てないようにドアを開けるわけ」
ツッコミ
「ほぉ? それで?」
ボケ
「昨日もそんな感じで、こそこそしながら玄関を開けたらさ、薄暗い廊下の先をすぅっと誰かが通ってリビングに行ったんだよ。あれ? 誰か起きてるのかな? って思って、小さく声をかけてみたんだ。酒乱様のお帰りだよ~って」
ツッコミ
「いやな酔っ払いだな。素直に、誰かいるのかって聞けよ」
ボケ
「いるよ~ とか返ってきたらどうすんだよ、怖いじゃん! それで、誰の返事も返ってこないから、恐る恐るリビングに行ったんだ。そうしたらさ、部屋の中は真っ暗なのになんかにおいがするんだよ」
ツッコミ
「におい? どんなの?」
ボケ
「なんていうんだろうなぁ、香ばしい? すげぇ美味そうなにおいがしてたんだ。で、当然気になるじゃん?」
ツッコミ
「まぁ、そうだな」
ボケ
「だから電気を点けようとしたんだよ。そうしたら、突然、真っ暗な部屋の隅でなんかが動いたんだ。もうこっちは心臓が尻から出そうなほどバクバクでさ」
ツッコミ
「口だよ! いやだわ、そんなたとえ」
ボケ
「恐る恐る目を凝らすと、じいちゃんの半纏がうっすらと見えてきて……点けるな! って怒鳴られたんだ」
ツッコミ
「おおっ、それで?」
ボケ
「オレもうびっくりしてさ、うわぁーって大声で叫んでとっさに電気を点けちゃったんだ。部屋が明るくなると、そこには──……嫁に出たはずの姉ちゃんがじいちゃんの半纏を着て恥ずかしそうに突っ立てたんだよ」
ツッコミ
「お前の姉ちゃん、夜中になにしてんの!?」
ボケ
「姉ちゃんね、旦那と喧嘩して夜中にこっそり実家に戻って来たんだって。腹減ってたから味噌ラーメンすすりながら、置きっぱなしだったじいちゃんの半纏を貸りてぬくぬくしてたらしいんだ」
ツッコミ
「本当になにしてんだ、お前の姉ちゃん!」
ボケ
「そこにオレが帰ってきたもんだから、慌てて電気を消して隠れたんだと。オレの絶叫で夜中なのに家族も起きて来ちゃって、皆で飲めや歌えやのラーメンパーティだよ」
ツッコミ
「ご近所迷惑! っていうか、じいちゃんが化けて出たんじゃないのか!?」
ボケ
「じいちゃん死んでないよ? 朝四時から大声でラジオ体操するくらい元気だから!」
ツッコミ
「だから、ご近所迷惑! お前、オレが聞いた時に、一年前にな……とかしんみり言ってたよな? あれはなんだよ?」
ボケ
「それはほら、オレって姉ちゃん子だったから、一年前に姉ちゃんが結婚して家を出たのを思い出したらさ……ううっ」
ツッコミ
「そこは祝ってやれよ! 一年前のことをどんだけ引きずってんだ。そもそも、これってただ、お前が隠れてた姉ちゃんにびっくりしただけの話だろ?」
ボケ
「まぁまぁ、最後まで聞いてよ。……姉ちゃんね、結婚して一年なのに今度離婚するんだ。味噌ラーメンが美味いか、塩ラーメンが美味いかで喧嘩したのが理由」
ツッコミ
「で?」
ボケ
「ラーメン離婚だって。怖いよなぁ」
ツッコミ
「どこがだよ! お前をラーメンみたいに茹でてやろうか!?」
ボケ
「お前が一番怖っ!」
了