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虹で世界を塗り替えて  作者: 太陽と月
第1章 夢を追う者
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001話『っふー、今日はこの辺にしておこうかな…。』

 日差しが傾き始め、ぽかぽかと暖かい3時過ぎ。私はお屋敷の庭にお茶会用のパラソルを立ててもらい、パラソルにかぶっていない視界から空を眺めていた。手に持っていた陶器製のティーカップを静かにソーサーに戻してから、またじっと空を眺めた。


「ナナちゃん…、また空を眺めていたのですか?」


 そっと優しく私の肩に手が置かれながら声をかけられた。彼女は私の姉で、ユカリお姉ちゃん。

 っと、その前に自己紹介しておかないとね。私はナナ!年齢は10歳になったばかりのラウン家の一人娘だよ!だから家族はお父様とお母様だけ。お屋敷には使用人さん達がいて、毎日私達のことをお世話してくれてるんだ!私は一人でできることは極力一人でこなしたいんだけどね。そうそう、家族が私以外にお父様とお母様だけならそこにいるお姉ちゃんは誰?って話だよね。じつはお姉ちゃんは、私の本当のお姉ちゃんじゃない…と思ってる。だってお姉ちゃんの姿は私にしか見えないし、声も私にしか聞こえない。果ては私の体の中に入ってきたりもする。私は知っている。そういう存在を魂って言うんだって。人間だけじゃなくて全ての生き物には命に魂が宿っていて、命が終わると魂は旅に出るんだって。白神様(はくじんさま)の所へ行ったり、次の命に宿ったり、彷徨ってしまったり…。つまり、お姉ちゃんはもう…。


「まぁ! ひどいです、ナナちゃん! 私をそんじょそこらの魂なんかと一緒にしないでください!」


 と、まぁこんな風に私の心の声もバレバレなんだけどね。でも確かになんとなくわかるんだ。お姉ちゃんが普通の魂じゃないっていうのは。お姉ちゃんが今みたいに私の体の外にいる時、私はお姉ちゃんに触れることができるし、お姉ちゃんから私に触れてもらうこともできる。だから悲しい時はお姉ちゃんにハグしてもらって慰めてもらっていた。その時は人肌のぬくもりを感じるの。お姉ちゃんの優しさにいつまでも甘えていたくなっちゃうの。


「そうですよ。 寂しい時、悲しい時はいつでもお姉ちゃんが慰めてあげます。 あぁ、甘えてくる時のナナちゃんはそれはもう可愛くて…。私は…、私は…! ナナちゃん、もう我慢できません! 今日はまだ一回もハグしてないですよ! さぁ、お姉ちゃんの胸に思いっきり飛び込んできてください!」


 それでも悲しいって気持ちが拭えないときがある。どうしてそんな気持ちになってしまうのか自分でもよくわかっていないんだけれど、そんな時私はひたすらにじっと空を眺める。今日は雲一つない快晴。空が一番広く見える私の一番好きな天気。曇り空も過ごしやすくて好きだし、雨の音は心が落ち着くからそれなりに好き。でも今日みたいな空がやっぱり一番好きなんだ。これも理由はわからないんだけれどね。


「あぁん! 無視しないでください、ナナちゃん! ほら、お姉ちゃんがそばにいますよ! ね!」


 そう言ってお姉ちゃんは私の前まで小走りで移動して向き合い、お姉ちゃんの顔にしか目が行ってしまわないように限界まで私に顔を近づけて来た。お姉ちゃんの満面の笑みが私の視界を埋め尽くす頃には私も思わず笑顔が零れてしまう。お姉ちゃんはこんな風にいっつも私を元気づけてくれるから助かってる。助かってるんだけど、やることが極端だからリアクションは必須になってしまう。例えばそう、今みたいに急に差し迫ってきたらびっくりする時はびっくりしてしまうし、だんだん息苦しくなって来た時はもがかないとお姉ちゃんには気付いてもらえないわけであって…。でもお姉ちゃんのハグはただ苦しいだけじゃ無い。愛おしく優しく包み込んでくれて、その感覚に一切の邪な気持ちなんて感じない。そう、丁度こんな風にいつまでもその優しさに浸りたくなるような…って、お姉ちゃん!?何やってるの!?


「だってナナちゃんがハグしてくれないから…。」


 いつの間にかお姉ちゃんから抱き着いてきてた。まぁ目の前にいたから時間の問題だったと思うけど。はぁ…、ありがとうお姉ちゃん。もう大丈夫だから。今日の訓練を始めようよ。


「分かりました。 お姉ちゃんはいつでも大丈夫ですよ。 あっ、でもモノローグでそのまま会話してしまうのは後でセリフかどうか判断しづらくなるのでやめましょうね?」

「…だって!こうでもしないとついしゃべって…」

「お嬢様? いかがなされましたか?」

「!? …いえ、何でもないの。 ちょっと考え事をしていてね、それでね、ついね? だから気にしないでくれると嬉しいな?」

「はぁ…、かしこまりました。」

「(もう!お姉ちゃんのせいでまたメアリーに変な目で見られちゃったじゃん!)」

「(念じればそれで私たちは会話できますよ?)」

「(だって口が動いてないのに声を出してる感じに慣れないんだもん。 はぁ、まあいいや。 じゃあ行くよ!”ユカリ“!)」


 お姉ちゃんの名前を強く念じれば、私の瞳を通してお姉ちゃんの魂が入ってくる。この時の状態を私は共助(ユニゾン)って呼んでる。まぁ、お姉ちゃんが命名してくれたんだけどね。それで共助(ユニゾン)の時は、お姉ちゃんがいつもそうしているように私も髪を掻き上げて左の耳だけ出るようにする。これはお姉ちゃんになり切るつもりもある。せめて形からでも気合を入れておかないと私はまだ共助(ユニゾン)を維持できないんだ。


 共助(ユニゾン)の時だけ、私は大気中の魔法の基となるエネルギー、マナを感じることができるようになる。私の当分の目標はこの状態に慣れること。いつもは全く感じない。だからこそ急に全身からピリピリと刺激を受けるから、痛いほどではないんだけどすごく気になる。だからマナを貯めるのに集中出来ないし、魔法を発動させるなんて以ての外。ちなみに魔法を発動させる為の手順は次の通り。


 1. 大気中のマナを体内に取り込む(取り込んだ量と放たれる量に魔法の規模は比例する)

 2. 体内のマナにどんな属性を持たせるかイメージする

 3. イメージした属性に適した魔法陣を描く、または思い描く

 4. 魔法陣から魔法となったマナが放出される


 といった感じ。魔法陣を“描く”か“思い描く”かっていうのは繰り返し使用するのかの違いがある。直接描かれる場合は魔法陣が欠けたり消えたりするまでイメージに合ったマナを送り込むと何度でも使える。これは主に生活魔法として使われる。火の魔法で料理したり、光の魔法で部屋を明るくしたりとかね。思い描いた場合は発動者の体から魔法陣が浮き出てくる。手から出したかったら手に浮き出てくるし、背中から出したかったら背中から浮き出てくる。簡単に言っちゃえば、イメージさえ上手くできればその通りに魔法を使えるんだけど、逆に言っちゃえばイメージできないと効率が悪かったり不発で終わったりする。規模が小さい生活魔法なら失敗してもそんなに被害は出ないけど、規模が大きい攻撃魔法は失敗しちゃうとマナが暴発したり魔法陣がどこに向かうか分からない。もし体内に魔法陣が出たとしたら…なんて、考えるだけでも怖い。私は紫色の色夢(いろゆめ)を見てるみたいだから、本来ならこういった魔法の才能があるはずなんだけど、一人の時だとマナの存在すら分からない。だからまずは慣れるんだ!色夢(いろゆめ)はその人の才能と直結している訳だから私に才能がないっていう訳じゃないはず。あっ、色夢(いろゆめ)っていうのはね…、


「(ほら、ナナちゃん、集中よ。)」

「(そ、そうだね、今は集中。 まずはマナを感じ取る。 ピリピリ、チクチクと引っかかる感じ。 これが滑らかになるまで。 お風呂に浸かっているかのように…、そよ風に吹かれているように…、自然を受け入れれるように…。)

 って、やっぱりだめ…。 ピリピリしすぎて受け入れるのが怖くなる…。」

「お嬢様は努力家でいらっしゃいますね。 マナの訓練は学院に入られてからでも遅くはないですよ?」

「ありがとう。でも遅くはないってことは今からでも良いってことでしょ? なら、私は今から頑張るよ! 私はこのまま暫く訓練してるから、メアリーは楽にしてて大丈夫よ?」

「お心遣い感謝いたします。 ですがいつも申し上げている通り、私にはそのようになさらなくても…。」

「う~ん、でもそのままだと退屈でしょ?」

「!? そんなことはありません! いつ呼ばれてもいいように待機しているのであって…、あっ、いえ。 声を荒げてしまい申し訳ありません。 私の落ち度でございます。」

「もう、またそうやって…。 メアリーは真面目だなぁ。 分かった、じゃあ命令ね?私の訓練が終わるまでメアリーはお茶してて?せっかくジェーンが用意したんだから、残しちゃダメよ?」

「か…、かしこまりました。」


 メアリーはまだ手が付けられていないティーカップに紅茶を注いで席についた。よしよし、ちゃんと休んでくれるみたいね。見ているだけなのに立ったままなんてなんだか申し訳ないから集中できないのに、どうしてわかってくれないのかな?


「(優しいナナちゃんも好きですけど、もう少し周りを気にせず集中できるようになりましょうね?)」

「(えぇ…、お姉ちゃん。 いや、そうだよね。頑張るよ!)」


 ~


「はぁ…、お嬢様…。 お嬢様が訓練されていらっしゃるというのに、他の皆様はお仕事をされていらっしゃるというのに。私が休んでしまっていてよろしいのでしょうか…。 (ごくっ)…あぁ、紅茶がおいしい。」

「あらっ、休憩中かしら、メアリー?」

「えぇ、よろしければ貴方も…、って!奥様!? あっ、あの、こっ、これには深いわけがありまして!」

「ふふっ、大丈夫よ。分かっているわ。またナナに言いくるめられてしまったんでしょう?」

「えっと、その、何と申しますか…。」

「良いのよ。私にもくださるかしら?」

「ただいまご用意いたします。」

「(どうしましょう!? まさか奥様が声をかけてくるだなんて…。 たるんでいる証拠だわ。 今度はお嬢様に言われてもきちんと…。 でも命令だと言われたら…、私は一体どうすれば…。)」


「っふー、今日はこの辺にしておこうかな…。 お待たせメアリー、ゆっくり休めた…。 お母様、いらしたのですね。」

「ナナ、侍女に対して休むように言うのはあまり感心できませんね。」

「どうして、お母様? きちんとメアリーは私のことを待ってたよ?」

「いいえ、仕える主人は立って訓練に励んでいるのに侍女は優雅に座って紅茶を嗜み一息ついている。 これはどう見ても休んで…、いえ、怠けているようにしか見えませんよ?」

「それは違うわお母様。 私だけだと紅茶を飲みきれなかったからメアリーにも手伝って貰っていたの。 立ったまま頂くのはお行儀が悪いから座らせていたのよ? ジェーンがせっかく淹れてくれたんだもの、残しちゃジェーンが可哀想よ。 ね!メアリーも美味しかったでしょ!」

「…はい。 私如きが頂くには勿体ないほどでした。」

「ほら! お母様も飲んでみて!」

「はぁ…、この子は本当に…。 (ごくっ)あらっ、美味しくなってる…。」

「でしょ! ジェーンにお礼を言わなくちゃ! ほらっ、メアリー行きましょ!」

「あっ! お嬢様! お待ちください!」

「はぁ…、本当に非常識な子…。 貴族として生きていくには優しすぎる…。 言葉遣いもまだまだですし。 バトラーはいるかしら?」

「…奥様、ここに」

「申し訳ないけれどこれらを片付けてくれるかしら? 後、ジェーンにも紅茶が美味しかったと伝えて。」

「承りました。」

「ええ、ありがとう。」


 ナナは10歳になり今年も残り1か月。子供は皆10歳になってから初めて迎える1月より中央都市シエル学院、あるいは衛星都市の専門学院に入学する。ナナの世界は始まったばかり。広がり始めたばかりである。

後の話にて改めて出ますが、主人公が住んでいるのはアルカン王国の中央都市シエル、という都市です。


主要な登場人物

ナナ 真珠のような透き通る白い髪色で肩甲骨ぐらいまでの長さを自然に降ろしている。目つきは穏やかな方だが、ユカリのおかげで表情豊か。身長は134cmで平均か、少し小さいほど。


ユカリ ナナの姉を自称する特別な魂。人間に例えると18歳ぐらいの少女でロングストレートの髪や、優しさを感じるたれ目は紫色(やや淡い桔梗色)をしている。身長は160cmで、体系は豊満ではないが決して貧相でもない。貧相ではない。(大事なことなので2回言った)

服装はクラシックメイド服を気に入っているのか、そう見えるように反映させている。



もしこの作品が「面白い!」「応援したい!」と感じられた方はぜひ

“評価” “感想” “ブクマ” などしていただけますと、

承認欲求の化身となった作者が惜しげもなく泣いて喜び…、

いや泣かないけど喜びます!よろしくです!

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