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作者: 雨霧 雨

雨は嫌いじゃない

雨の日は傘に弾き飛ぶ雨音に聴き入ったり、

洗い立てのローファーで水たまりに映る私の姿を

バッシャーンっと消し去ってキラキラと輝く美しい水沫にしてみたりしないと勿体ない。

だから、そんな日は帰るのが遅い。学校から家まではいつも電車で二駅のところをわざわざ、二駅分歩いてゆっくり帰るから。

今日は雨

先週私が住んでいるここ、関西も梅雨入りしました。とロボットみたいに無機質な声でアナウンサーさんが一週間前に宣言していたのに今日がその宣言から初めての雨。

ワクワクした気持ちは心の中からあふれて、私は普段学校では冷静沈着なのだけれど、似合わないスキップなんかしちゃって、私の唯一のともだちである夕梨に

「天音、今日変だよ!熱でもあるの?大丈夫?」

 と本気で心配をかけてしまった。

 今日は、帰るのが待ち遠しくて、雨が止んでしまわないよう神様に祈っていたらあっという間にもう放課後だった。

「夕梨、今日部活だったよね?私、今日は先に帰るね。」

「えー。今日は部活じゃないよー!また天音一人で帰るの?

まぁ、いっか、、。ばいばーい」

 すごく寂しそうな顔をして夕梨が言う。夕梨はちょっとめんどくさい。やっぱり、友達なんて作らなければよかった。中学のときみたいに一人のほうが楽。

早足で正門を通り抜け、人もまばらな住宅街の路地まで通り抜ける。

雨の帰り道は誰にも、夕梨にも秘密

私だけの帰り道。

傘をまわしてくるっと一回転。人には絶対、特に学校の人達には絶対に見られたくないような子供っぽいことをしていると思う。けど、どうしようもなく楽しい。

 水たまりをバッシャーンと蹴ろうとした。すると、突然、今まさに私が蹴ろうとした水たまりが淡く発光しはじめた。

「えっ、なにこれ、、。」

 それは、青く、蒼く澄んだ光だった。吸い込まれるようにして近づき水面をのぞき込む。

すると、

惑わされるくらい蒼い目をした、今にも消えてしまいそうに儚い同い年くらいの男の子が

「            」

 こちらに何かを伝えようとしている。

「?」

 気づくと手をあちらへ伸ばしていた。冷たい水面が私の手をなでた瞬間、内臓が全部ひっくり返るような感覚がして、気付くとさっきの男の子に腕をとられて立っていた。きらきらと光を躍らせる水の中に。そこは、水中なのにまだ幼い弟が絶対君主権を握る家や学校なんかより断然息がしやすかった。

「ここはどこ?あなたはだれ?」

「ここは碧のお城、天音さんだけのシンショウ世界です。僕は、雨音です。ただし、僕のことはあなたが一番知っていると思うのですが。」

 こんな蒼い目の知り合いなんていなかったと思うんだけど。しかもシンショウってなんだろう。上手く漢字変換ができない。でも、そんなことどうでもいいやと思ってしまうには十分この世界は居心地がよかった。私のためだけの碧いお城。調度品から図書室から何から何まで私の気に入るように出来ていた。なにより、この世界ではずっと一人でいられるし、食事をしなくていいところも好きだ。食事はストレスが溜まる。生き物を殺している感じが気持ち悪い。三日間はずーっと図書室に籠って本を読んでいた。それにも飽きてきて雨音くんと話そうと思いお城の中を探した。

お城の中だったらどこでも行っていいと言われていた。書斎、のようなところに雨音くんはいた。

「雨音くん、一緒に話さない?」

「いいですよ。」

「雨音くんって何歳なの?」

「天音さんと同い年です。」

「好きな作家さんとかいるの?」

「それも天音さんと一緒です。」

「なんでそんな同じのばっかりなの?絶対適当に答えてるでしょ。しかも、なんで私の個人情報ダダ洩れなの!?」

「私があなただからですよ。」

「何それ、意味わからないじゃん。」

 唐突に夕梨のことを思い出した今頃心配してるのかな。向こうでは私はなにがあったことになっているのだろうか。お父さんとお母さんにも心配をかけているかもしれない。そう考えだすとみんなのことなんて鬱陶しかったはずなのに居ても立っても居られなくなって、

「ねえ、雨音くん。私って今、あっちではどうなっていることになっているの?」

「学校から帰る途中でいきなり倒れて意識不明の状態といったところですね。」

 そう言って、雨音くんは水面みたいに水紋が立っている大きな鏡を部屋の奥のほうから出してきて私に見せてくれた。夕梨がいっぱい機械をつけられて白いベッドに寝かされた私のそばで泣いている。夕梨は、ちゃんと心配してくれるんだな、そう思った。次に、お父さんとお母さんが映った。二人はまだ幼い妹の世話をしていた。楽しそうに笑いながら。

「帰りたくなりましたか?天音さん。」

「ううん。あんなところもう一生帰らない。絶対に。」

 はらわたが煮えくり返るようだった。娘がこんなことになっていてもあんな風に笑って、楽しそうに過ごしているなんて信じられない。

「雨音くん、夕梨だけ連れてきてよ。私、一生ここで夕梨と雨音くんと遊んで暮らす。」

「いいですね。楽しそうです。では、少し待っていてください。」

 しばらくすると雨音くんが夕梨を連れて帰ってきた。

「夕梨!」

「天音!大丈夫?」

「うん。見てのとおり。元気だよー。」

「じゃあ、天音帰ろっか。親御さんたちもすごく心配してたよ。」

「そんなわけない!絶対嘘嘘嘘。私は夕梨と一生ここで過ごすんだよ。一生ここで。楽しそうでしょ?」

 夕梨がおびえたような表情をしている。こんなに私は楽しいのに。

「ねえ、夕梨も楽しもうよ。こんなにも楽しいよ?」


そのころ、そっと二人から離れた雨音がお城の外でにやりと笑っていた。

「やっと外に出れます。これでもう天音さんの表面人格は僕に入れ

替わりですね。さっき映っていたご両親の映像は天音さんの小さい頃のものだったのに。馬鹿ですね。僕が表に出たら天音さんとは違ってちゃんと親孝行しますか。天音さん。ずーっと囚われていてくださいね。心象世界にようこそ。くすくす。」


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