大事な毒ガス
キャンプは温泉のある場所から充分離して設置された。単に温泉の湯気に毒性があるからだ。シーナが言うには薬屋ギルドや染色の職人にはこの場所は知られた場所だそうだ。
「温泉の周りで取れる色の付いた泥が、薬や染料に使われることがあるんだけど、そんなにたくさんはいらないし、毒のせいで長くはいられないから。2年に1回ぐらいたくさんで行って、短時間で『わっ』と。」
「『わっ』と?」
シーナは手で何かを掘る動きをした。
「泥掘って帰ってくる。」
翌日、日が昇ってから少し遠巻きにそのもうもうと上がる湯気を観察した。
「ふうん。」
ローブのフードを引き下げると、久しぶりに気化する。改めて観察すると違和感を感じた。
(噴き出すガスの種類が怪しい…)
賢者の目から見ると大地の存在する理由は「大地」が「そうしていたい」からだ。そして、その「大地」はハッキリした知能を持つ生き物に比べて意欲が薄いので、手間をかければ穴も掘れるし、加工もされる。温泉が湧くところまでは大地というか山の意思は感じるが、薄黄色の毒ガスまではその意思を感じない。近付いてみると何かの術の痕跡がある。
(へえ、なるほど。)
地面に脱ぎ捨てたローブの中で実体を取り戻すと、何となく遠巻きに様子を伺っていたキャンプの連中に報告を始める。
「元々、この土地は毒を出す土地じゃない。過去にここには賢者が居たんだ。その賢者が温泉の熱を利用して…多分、そのクスリ用の泥を生み出すために、この土地の性質を弄ったんだ。」
キャンプの大多数がどよめいた。空の民も一歩遅れてどよめいた。方々から質問が飛ぶ。
「何のために?」
「だから、薬用の泥を供給するためだと思うよ。」
「その細工をした賢者さまはどのお方ですか?」
「分からないけど、ボクが出会った賢者でこのタイプの術が使える賢者は多分居ない。強いて言うなら気体を扱うのが得意なボクなのかもしれないけど、ボクは…その…物質を違うものに入れ替えてしまう『フィルター』みたいなモノはどうやって作るのか見当もつかない。だから多分、大昔に生きていた賢者がやったんだと思うよ。」
そうこうして話をして、意見をまとめた結果。「泥の生産はこの世界ではなくてはならない」「毒ガスは勘弁して欲しい」と至極全うな意見が出た。腕の見せ所だ。




