曲芸
何となく城内は騒がしかったが、衛兵たちがなにやら騒ぎ出した。気になって音のする竜の発着場の方へ歩いて出ると、赤くまばゆい光と熱波に照り付けられた。一瞬、敵襲か何かかと思ったが違うらしい。おびただしい竜の群れが火炎をはきながら空を舞っている。そして、全く聞き取れない竜の言葉で何かをギャイギャイ言いまわっている。竜が吐く炎と黒煙で、そろそろ太陽が見えなくなる勢いだ。
「ボブ?」
心配して出てきたシーナをドラゴンが掴んで空へ攫った。
「え!?」
そしてボクも同じように攫われた。タカがねずみを狩るようにだ。ドラゴンは器用にボクを放り上げると背中にのせて上昇していく。みるとシーナも同じようなことになっているらしい。頭がくらくらする。
「賢者さまのご結婚だ!」
低空飛行している別の竜が王都を飛び回りながら人間にも分かる言葉で叫んでいる。
「お前なんぞに花嫁さまを乗せる大役が務まるものか!」
「よくも言ったな!『吹き比べ』で決着をつけようではないか!」
シーナを乗せた竜と、また別の竜が人間の言葉で小競り合いを始めた。人間の言葉をつかっていると言うことは、これは恐らく竜族にとっての演劇のようなものなのだろう。「吹き比べ」は、どうやら、吐いた炎の大きさを競うモノのようで、シーナを乗せた竜と、もう1頭の竜は2頭同時にそれは見事な火炎を吐いた。
「うわー、すごい!」
さすがにシーナも驚いた様子だ。そして、コレが竜族の心をこめたお祝いだと気づいたらしく、ガラにもなく少し照れた、そして嬉しそうな表情をしている。あまり他では見せない女性らしい顔だ。
「なるほど、貴殿のいうことにも一理ある。花嫁さまを乗せる権利を一時譲ろうではないか。」
2頭の竜は高く舞い上がると、肩を組むようないびつな姿勢で身を寄せ合い並んで飛行した。シーナは戸惑いながらも竜の背から背へと移動している。
「おお!」
いつのまにか塔の衛兵たちも全員上を見上げていた。あれは誰が見てもそうと分かる、竜たちの曲芸飛行だ。シーナが竜の背を渡り終えると衛兵達から拍手と歓声が挙がった。ボクはいつのまにか塔の発着場に戻されていて、そこへシーナをのせた竜たちも花びらを撒きながらゆっくり降りてきた。その間も竜たちはギャイギャイ言うのをやめなかったが、どうも編隊飛行のタイミングを計っているらしく、結局シーナをのせた竜と他2頭が発着場に降りると、ピンと首をあげ、いかにも気品のある動きでシーナを降ろした。外では再び竜たちが編隊飛行しながら炎を吐いている。
「馬から馬に飛び移るよりは簡単だった。」
シーナは息を切らせてそう言った。




