重い平穏
タカシの町はキスタラとの境を崖に依存しているため溝は引かれなかったが、衝撃は大きかった。武力に絶対の自信を持っていたタカシは、傍から見ても分かるほど落胆していた。新しく建った館にひきこもって出てこない。ボクは薬屋ギルドをさらに拡張して住居を整える計画を立てながらも、町の雰囲気が低調である事は感じていた。巨人がその気になれば魔族も人間もいつでもひねり潰されることがわかったからだろう。また、キスタラとタカシの両軍が自分たちの命がけの戦いのちっぽけさを思い知らされた点も大きい。
「小さいやつらじゃのう。」
薬屋ギルドで師匠が茶をすすりながら文句をたれる。ギルドには薬屋を目指す新入りが師匠の教えを乞うために集まっていた。しかし、今のところ彼らの役に立つようなことは何も言っていない。ボクは久しぶりに取り戻した自分の左腕をさすっていた。ボクはあの後、旧ザワ領の南方からさらに南へ進軍したザワの残党が国境を守護する魔族相手に敗走したことを確認していた。
「師匠、そろそろちゃんと薬のことを教えてあげてください。みなさんこうして集まっているので。」
「じいさん、ちゃんとやんな。」
シーナは全体的に不機嫌だ。ボクの左腕をどこに隠しているのかボクも師匠も教えなかったからだ。少し根に持っているっぽい。師匠はシーナの怒気に当てられてボクを恨めしそうな顔で見た。師匠もボクがどこに左腕を隠したかバレない事が、安全という意味である程度重要だと分かってはいる。しかし、孫娘が冷たいのは辛いのだろう。師匠はすこしでも孫娘のご機嫌を取り戻すために真面目ぶって講義を始めた。薬屋ギルドを出ると、やつれたマリクがノームと話し合っている。カレーの無料券の夢はまだ潰えていないようだ。きっとその内元気も出るだろう。町を歩きながら空の民にも出会った。文句を言いながら物流の仕事をしているようだ。
「結局ここに来たの?」
「人間に住処を荒らされたからな。」
魔族は比較的階級構造がしっかりしていて、空の民は見た感じ地位は低そうだったが、タカシの町はそもそも人間と魔族が共有しているので、さほど階級構造もきつくない。住みやすいのかもしれない。そう考えながらボクはタカシの館の前まで来てしまった。中がどうなっているのかは大体分かる。タカシはこっちの夢を叶えたのだろう。踵を返すと薬屋ギルドに戻る。薬屋の前でこちらを見る魔族がいる。
「タカシ、お客さん。」
シーナがそういうと「お客さん」は頭を下げた。
「フェーン殿下からの使いです。お会いして話したいことが在ると…恐縮ですがお迎えに上がりました。」
フェーンはこちらにこれない事情でもあるのだろう。遠くのほうに緑のドラゴンと黒のドラゴンがいるのが見えて、町の住民がびびっている。ギルドの奥から師匠が何か言いたげにこちらを見ている。
「シーナもついてきてよ。」
不機嫌な孫娘のお守りは疲れたのだろう。




