両軍
「タカシは!?」
通りがかりの住民に尋ねる。
「今のなんですか…ドラゴン?」
「ああ、そんなようなものです。それよりタカシは?」
「ザワの残党兵を迎え撃つために兵を挙げて北へ。」
ボクは考えをめぐらせた。頭の中がまとまらない。集中するとまだノームの里から帰っている途中であろうシーナに呼びかけた。
「シーナ!」
「何?相変わらずどこから声が聞こえるのか分からないんだけど。」
「そんなことはいいんだ、おじいさんいる?」
離れた左腕を通してシーナが祖父を探す声が聞こえる。
「なんじゃい。」
ボクはタカシの町にザワの残党が攻め込んでくることを伝えた。
「まずいな…ザワの残党を迂闊に迎撃するとキスタラはそれを口実にタカシの町を侵略するかも知れん。その様子じゃと残党なのか難民なのか分からんようなカンジじゃ。どんな戦闘があったにせよ、キスタラは難民を武力で追い返したと難癖はつけるかも知れん。ボブよ、衝突前に間に割って入ることは出来るか?」
「多分いけます。」
返事をしながら物陰に飛び込むと目を閉じて肉体から飛び出した。正確には別のものに変わっているのだが、感覚的にはカラダを置いていく感じだ。上空に飛び上がると北を目指して吹き抜ける。今度、時間があったらドラゴンが飛ぶような風の使い方を練習してもいいかもしれない。
「ザワの残党に『タカシの町では難民は受け入れられない、キスタラへ向かえ』とハッキリ呼びかけろ。難民か侵略者かハッキリさせるんじゃ。」
眼下にタカシと主に魔族で構成される軍勢を見ながら両群の間に下りる。何があるか分からないので姿は現さない。
「ザワの皆さん!タカシの町では難民は受け入れられません!キスタラへ向かってください!!」
ザワの軍勢から「賢者ボブか?」「あの裏切り者か?」と聞こえてくる。ザワにいる誰かが僕に関して適当な噂を流したのは分かっている。そいつだけは見つけたらとっちめたほうがいい。
「この際、裏切り者かどうかは関係ない!タカシにあなたたちでは勝てない!」
「余計なことしなくていいよボブ。」
タカシの声だ。
「最初に荘園計画を持ち出したときから、ザワの連中は、後からボクの領地を切り取るつもりだったんだ。その証拠にキスタラから領地の境を示す図面はまだ届かない。」
「タカシは人間と戦うのつもりだったの!?」
「ボクと一緒に出陣してる中には人間もいるんだよ?ボクはボクを攻撃する人間を倒す!」
タカシは一人だけ前に進み出てきた。
「ボブ、簡単な話だよ。」
タカシからはボクの姿は見えないので、タカシは中空をきょろきょろと見回しながら話している。ボクは老シーナに助言を求めた。
「呼びかけたんですがどうしましょう。」
「武器を捨てた難民には手を出すなとタカシに言うとけ。お主はキスタラにザワからの難民にキスタラに向かうように指示をしたと伝えよ。そして、タカシの領地がどこからどこまでなのかをハッキリしないと逆にタカシに領地を切り取られると『ワシが警告している』と言ってやれ。」
ボクが無言になったせいでタカシはさらにきょろきょろしている。
「タカシ、分かった。武器を捨てた難民には手を出さないで。」
「そんなこと分かってるよ。」
「ボクはキスタラに難民を受け入れるように言ってくる。」
「え?行っちゃうの?」
「タカシ、あの程度に負けないでしょ。」
「ウン…いや、一人だと分からん。」
ボクはややザワの集団側に移動すると再度呼びかけた。
「武器を捨ててキスタラに逃げる方はお早めにしてください。どうなっても責任取りませんから。ボクはキスタラに皆さんを受け入れるように声かけてきます。」
ボクは頑張ってキスタラを目指しながら、少しだけドラゴン的な移動方法を試してみた。




