ドーナツ
ボクはこんな騒ぎのあとで家に帰る気もせずルイスのアパートに転がり込んだ。ポーと途中で買ったドーナツも一緒だ。
「ポーはなんでこの世界にこれたの?」
明るいところでポーを見ると、ピエロのようなややコミカルな見た目をしている。胸の空いた革の服には小さな鈴が沢山ぶら下がっていて、白く塗られた顔には笑い皺が刻まれている。
「元々、ボクは死と生命の術を研究してたんだ。だから転生はどちらかというとボクの専門分野なんだよ。シャムロウは本当は太陽とか夜と昼とか、そういう時間に関わったりする術が専門のはずだよ。シャムロウが転生召還を人間に伝えてから何が起こったのか色々見たけど、なかなか不安定だね。まず転生した人間があっちの世界で死んだときに、再転生するときがあるんだけど、最初に転生した時間に戻されるときと、そうじゃないときがあるみたいだ。あとは、再転生するときとしないときの違いもハッキリ条件が分からない。シャムロウは他の世界の生きてる人間を召還するのは良くないって考えて、他の世界で明らかに寿命を残して死んだ人間を掠め取るように召還する術を作ったんだけど、術の条件付けが曖昧でシャムロウは一度術を手直ししてるようだね。でも、魔族に滅ぼされそうになっていたキスタラは救われた。…結局、転生者にとっての『はじまりの街』のザワはなくなったけどね。」
ポーは簡単そうに話すけれど、この話はなかなか難しかった。
「ポーはじゃあ、もっと高度な術を使ってるってこと?」
ポーが首を振る。
「いや、ボクのはもっと単純でシンプル。見て。」
ポーが服をまくっておなかを出すと引き出しがついている。
「この引き出しの中に術で使う陣がもう書いてある。だから割とどこでもいつでも動けるよ。この鈴を2人にあげるよ。」
ルイスとボクはぴかぴかに輝く鈴を一個ずつ渡された。
「その鈴を鳴らすと、ボクの服の鈴が鳴る。同じ鈴なんだ。そうしたら忙しくなければボクがこうして会いに来るって仕組みだ。さて、そろそろボクはあっちの世界に帰ろうかな。ボブは向こうに戻るだろ?」
「はい、そのつもりです。」
ボクは何となく立ち上がった。
「ルイスはこっちの世界に残るだろ?」
「生まれた場所なんで。」
ルイスは少し笑いながら答えた。
「あっちの世界に戻りたい転生者がいたら鈴を鳴らしてよ。ボクが何とかできると思うからさ。じゃあボブ、帰ろうか。ルイスを見て。あんなに切ない顔をしてるから、なんか言ってあげて。」
本当だルイスが半泣きだ。
「ルイス、ありがとう。」
「なんか…いつかまた会えますかね?」
「ボブでいいよ。」
ルイスのアパートをポーと一緒に出ると、やっぱりダウンタウンの吸いなれた空気だった。
「いつか、ボブも自由に行き来できるようになるよ。」
ポーはそういうが老シーナもシャムロウですらも転移はうまく使えないっぽい。これはポーの専売特許ではないだろうか。夜景を最後に一目見るとボクはポーに連れられて元いた世界に返った。




