口論
「なるほど、それで体力を消耗したってワケですかい。」
ルイスの運転する車に乗せてもらって街の中心を目指した。
「ところで賢者さまは、来る途中で金とベンチコート落としませんでしたか?」
「あ、それボク。」
ルイスが後部座席を示した。のぞくとタイヤ痕がガッツリついたベンチコートが置いてある。
「さっき知らずに踏みまして。賢者さまって言うのは体が隠れる服を着るモノだってシーナ様から聞いてたんで。じいさんのほうですよ?」
「あー、大丈夫です。」
だいぶポケットからお金が減っているが、そもそもいかがわしいお金だし、海外に敵を倒しに行く雰囲気でもなくなったので、むしろ、お金を返したほうがいいのではないかとも思えてきた。街が近づくと転生者どうしで激しい戦いが起こっていた。市役所前をパトカーが十重二十重に取り巻いている。必死で争いをやめるように拡声器で訴えているが効果はなさそうだ。ルイスは少し手前に車を停めてずんずんと歩き始めた。何人かの警官が制止するがお構いナシだ。
「お巡りさん、ちょっとそれ貸して。」
ルイスが拡声器を警察から奪う。
「はい!転生者の皆さん注目!一旦やめて!」
この人は滅茶苦茶な人なんだなと思う。
「賢者のボブ様が到着されました。ボブ様に立ち向かったヤツはすでに全員倒された様子です。カウンスの賢者さまの話によると俺も含めて転生者が全員束になってかかっても勝てませんよ!どうしますか!?」
転生者たちの戦いがやんだ。ところどころから「裏切り者」と聞こえる。
「えー、そもそもボブ様が裏切り者というのは何のことでしょうか?」
ルイスが呼びかけると、転生者の一人がボブを指差して「オレたちに与えられるはずのパワーを奪って賢者に」と言う声が聞こえる。
「間違いです!カウンスの賢者は『賢者がそんな仕組みでなれるわけねーだろ』って言っておりました!次!」
他の転生者が「魔族と結託してオレたちを潰そうとしている」と言った。ルイスが「それはどうなんだろうか?」とこっちに振り向く。ボクはルイスから拡声器のマイクを受け取った。
「ちがうよ!むしろタカシの町周辺で魔族と人間の争いが起きないようにしたんじゃないか!」
他のところから声が飛んだ。
「そのタカシの町が人間の国から搾取するから、ザワとかキスタラの経済がガタガタになってるだろ!」
「それはその通りかもしれない。でも、魔族の領地で手に入る今まで稀少だった物資を人間側が買い漁ったのが原因だよ。ボクはマリクって転生者と、それを解決しにノームの知恵を借りに行った所をザワの兵に襲われたんだ。」
また別のところから声が上がる。
「それにしても引っ掻き回しすぎだろ!ルールを守って商売しろよ!」
「なんで、そんなあっちの世界の商売を転生者が気にするのか知らないけどさ!皆、知らないだけでボクは今でも薬屋ギルドの一メンバーだから!商売の文句はギルドに言ってくれないかな!?悪いけどボクはあっちの世界で金持ちでもないし、なんなら一生懸命頑張ったカレーも別の人に商売譲っちゃったし。」
不意に上のほうから怒号が聞こえてきた。
「そんな話信じられるか!」
赤いワンドを振りかざした女性が市役所の屋根の上からこちらを狙っている。
「こっちの世界で魔法使うと!生命力尽きてその内消耗して死ぬからね!」
自分でも驚くほど強い口調だった。
「あなたが使ってるの、マナじゃなくてあなたの生命力だから!」
女性はワンドを下げた。




