校門前
「だから、あちらの世界の一般的な魔法に比べて薬屋が持つ術は、あくまでも薬の効果を使っているので、自身の消耗が激しいんです。」
ボクは学校の教室で授業をしていた。地理の教師や同級生の面々がその授業に聞き入っている。
「皆さんも実際にやってみましょう。まずはグリーンワンドというものを自分用に作ります。自分の性格がそのまま出るように、自然に巻いていきます。自分の弱さも、強さも形にします。」
皆が和気藹々とワンドを自作する様子を見ながら、ボクは例の少年がいないことに気づいた。ボクだってレッドワンドで魔法は使えるけど、ここはあの7年生に活躍させてあげたい。異世界で努力した成果をみんなに見せる機会が作ってあげたいと考えて探すが、あの少年が見当たらない。
「はっ!」
ボクは夢を見ていた。そして目覚めた。視界が歪んでいる。周囲の音もゆがんで聞こえる。一生懸命思い出す。そうだ、ボクは自分の生命力を削って少年に回復魔法をかけたんだ。覗き込む顔が徐々に判別できるようになってきた。ボクは仰向けに倒れている。左腕がいつのまにか無いのも思い出した。
「彼は!?」
視界がクリアになった。上半身を持ち上げようとするが全身が鉛のように重い。
「あのガキは大丈夫。これ…食うんだろ?」
アメフト部の連中が目の前にチョコレートバーを差し出している。ボクの頭にペンキをぶっ掛けた連中だ。そいつらに助け起こされながら、チョコレートバーを食べる。頭の奥のほうがジーンとする気がする。チョコレートバーを食べて気分が良くなったボクは、周りを取り囲む次々に差し出される食糧を片っ端から術で自分に取り込んでいく。糖分、水分、タンパク質、ビタミン…ボクの右手が触れるたびに緑に輝いて行く光景は、見慣れない彼らにとっては衝撃だろう。ボクだって、チョコレートバーが輝くのはなかなか見慣れない景色だ。
「漲ってきた。」
なぜか周囲から拍手が起きる。ボクは色々隠すのをやめることにした。
「ボクは異世界に一度転生して戻ってきた。異世界に転生するきっかけは不遇の死だ。ボクらは向こうの世界では転生者と呼ばれて、だいたいは戦争で使い捨ての戦士として死んでいく運命にある。そして向こうの世界の連中は戦争の道具の転生者をもっと補給するために、この世界に殺し屋を送った。今の7年生も向こうの世界で魔術師として戦わされたんだろう。連中は、ボクも、この世界にいる皆も狙っている。身を守って、誰かに襲われそうになったら大声で叫んで。」
そういっている矢先に、校門にスクールバスが突っ込んでくるのが見える。この際、仕方がない。
「皆、目をつぶって!」
ボクを取り巻く全員が目をつぶったことによってこの世界での不確定性が成立した。ボクは取り囲む生徒たちの間を突風となってすり抜けてバスの突進を受け止めた。運転しているヤツはやはり転生者だ。ボクはバスを押さえながら開いた窓から車内に入り、転生者をバスから放り出すとバスを止めた。中には子供がたっぷり乗っている。
「くそ!裏切り者の賢者か!」
学校の塀に叩きつけられたヒゲ面の男性がショートソードを抜いて立ち上がる。
「お前は生命力を削らなくても戦えるタイプだな。」
ボクはもう一度しっかりと男性を壁に叩きつけると、男性はのびた。ついでに視界に入った魔術師の7年生が落としていったレッドワンドをぶち折る。そうしているとオープンカーに乗って二人組がやってきた
「賢者さま仲間に入れてくれよ。」
遠くのほうから叫んでいる。見るからにメキシコ系の見るからにギャングがバスタードソードを肩に担いで片手運転している。急ブレーキで停車すると助手席の女性は前に倒れてフロントガラスに頭をぶつけた。
「ザワの連中を騙して戻ってきた。この街を守りてえ。この女は地下鉄にライトニングボルトを打ち込もうとしてたんでお仕置きしてやったんだ。俺はルイス、あんたはボブだ。よろしくな!」
ルイスと名乗った男は車を降りると、バスタードソードを背中に担いだ。ガムをくちゃくちゃ噛んでいる。
「やっぱりガムはチェリー味だな。バブルガムが無い人生なんてもうまっぴらだ。」




