教室へ
「ママ、仕事のためにパスポートが欲しいんだ。ちょっと市役所までついてきてよ。」
電話の向こうで母親がキレ散らかしている。
「ママ、聞いてよ、先払いでもらえたお金があるからママに渡せるんだ。」
母親は一瞬で静かになった。合流して市役所に向かい、パスポートの申請をする。母親にわずかな現金を渡すと「仕事が始まったらもう少しお金送れると思うから」と適当なことを行って機嫌を取った。母親と別れると書店で地球儀を購入する。それをもって、高校に向かう。遅刻して学校に入ると昨日の留置所騒ぎを知った同級生の何人かがニヤニヤしてこっちを見ている。
「あれ?ボブの腕が?」
ボクはめんどくさいのでそのままにしておいた。何人かが体を服の上から触って確かめたが無いものは無い。彼らにとっては昨日まであった同級生の腕が消失しているのだ。いじめっ子の主犯格が「お前、ボブだよな?」と不安な顔で尋ねてきた。
「そうだよ?どうした?」
「腕、何で隠してるんだよ。」
そでをまくって見せる。
「義手だったんだ。外したんだよ。壊れたんだ。」
大嘘をついた。しかし、彼らはウソを見抜く手段を持っていない。まさか、故意に別世界に左腕を置いてきたなどとは誰も想像できない。
「お前…」
「よせ、行こう。」
いじめっ子グループの主犯格が何か言おうとしたのを別の生徒が止めた。シーナのところに腕を置いてきた思わぬ効果がこんなところに現われた。これでもまだいじめを続けたらたいしたものだなと思っていたが、そこまでの根性はないらしい。なにやら気まずい表情をしていた。
「いつもみたいにしないの?心配しないでいいよ。ボクは君たちには敵わない。弱いから。」
立ち去ろうとした連中の背中に声をかけた。クラスが静まり返る。一人が振り返らずに声を絞り出した。
「悪かったよ。」
そして、教室を出て行った。ボクにとってそれは意外な反応だった。惨めな顔をしていた。同情する気にはなれなかった。生まれつきの肌の色と貧しさで誰かをいじめるのと、手がない事で誰かをいじめる違いは注目するほど大きくないだろう。連中はとうとう自分たちがくだらない人間だと気づいたのかもしれない。




