重要な任務
連日の狩りが上手くいって、ボブとタカシはすっかり経済的に安定していた。装備は一新され背の低いタカシにすら威風のようなモノが出てきた。
「今日来てもらったのは他でもない、冒険者の二人に頼みたいことがあるからだ。」
将軍補佐官に呼び出されて来てみると、そういう話らしい。
「領内に魔族が入り込んでいる可能性があるという報告があったが、現在、我が軍は北西の国境で魔族と交戦中でそちらに人員を割けない。そこで2人に西方の街キスタラの調査を頼みたい。」
2人は特に抵抗もなく引き受けるとキスタラへ向かった。もう何度も行った事がある街だ。定宿にしている街の酒場の主人に声をかけて荷物をまとめる。
「何か特別なものは必要かな?」
「いや、キスタラだろ?」
途中まで乗合馬車に乗るが、最後の停留所になっている牧場からは歩きだ。
「この辺でいつも盗賊が出るんだよな。」
「出たね。」
飛び出してきた盗賊は2人の顔を見てあっと驚いた。
「お前らは…バカみたいに強いチビとデブ!」
「うるさいよ。」
盗賊は泣きそうな顔をしながら目で何かを訴えている。そして、全く腰の入ってない動きで斬りかかってきた。タカシは何か違和感を感じながら受け止める。
「タカシ…なんか変だよ…」
「わかってるよ。」
タカシはこの盗賊を何度も顔を見かけている。そして、決してタカシとボブに襲い掛かることはなかった。身の程を知っているからだ。
「…どうしました?誰かに脅されてますか?」
「…魔族だ…あんたを襲わないと家族が殺される…ここで冒険者を襲いながら、反撃されて、逃げる途中でモノを落として冒険者に拾わせるのがオレの役目だ…」
適当に劣勢になったら逃げ出すのが彼の任務だった。逃げ足の速さを見込まれたのだろう。しかし、タカシとボブに本気を出されると逃げる前に殺されてしまう。タカシは相手に合わせて切り結びながら少し高台に移った。
「ごめんね!」
「うわあ!!」
そして盗賊を蹴り落とした。なだらかな斜面だからあの盗賊ならかすり傷で済むだろう。
「ちくしょう!覚えてやがれ!!」
2人は盗賊の捨てゼリフを妙に心地よくききながら、走り去る盗賊が何か落としていくのを認めた。
「ボブ、あれだよ。」
2人は斜面の下に駆け下りる。
「タカシ、誰かに見られてると思うよ。」
声を落としてボブが言った。
「ボクも気づかないふりしてるよ。」
タカシとボブが発見したのは何かの地図だった。
「いなくなったね。」
タカシとボブを監視する視線が消えた。
「ボクたちがこれを拾って中を見るか確認してたんだろう。これで冒険者を釣って何かしようって言うんだろうね。魔族に脅されてこれを落とすのが彼の任務だったそうだ。」
「…脅されて?」
眉をひそめるボブにタカシは首を縦に振った。
「家族を人質に取られているそうだ。助けなきゃ。」
2人はひとまずキスタラに急いだ。