タカシの街のはじまり
高台から駅舎に向かって坂道を下りると、魔族たちが結果を知りたそうに待っていた。
「私の負けだ。この土地の統治はタカシ殿に渡される。」
魔族たちは半ば予想していたようだが、やや落胆した様子だった。
「ではまず、ボクからこの土地の権利者として言いたいことがあります。」
タカシが大きな声で魔族たちの気を引いた。
「そのうちきちんと柵を作ろうと思いますが、この土地よりも向こう側、人間の土地に入り込むのは禁止です。また、まだどうするかは決めてませんが、この領地で人間と魔族が戦うの禁止です。これを破った場合、人間でも魔族でも厳しく処罰します。」
ボブがタカシに耳打ちする。
「なるほどね。『刃のついた武器を持つ』の禁止だそうです。忘れてました、この世界は刃物がないとそうそう人は死なないんだった。あと、魔族も人間も領地内に入るのは止めませんので駅舎はそのまま今までのように使っててもらって結構ですが、ボクにも使わせてください。」
「同胞はこの領地内に居る限りタカシ殿に協力するように。」
フェーンが一言言い添えた。魔族たちはやや騒がしくなった。
「そうか、タカシ殿。我、同胞達はここで人間の動向を探るのが任務だったので、ひとまず仕事がなくなったのだ。」
「帰りたい人は帰ってもらって、ボクのところに残ってもいいって人は残って色々手伝ってもらえると助かります。」
フェーンは「だそうだが?」と言うと、何人かはやはり地元に帰りたいようだ。タカシとフェーンはしばらく話し合うとゴルフを呼び出した。
「ゴルフ指揮官、指揮官の任を解くが、このままタカシ殿の領地に残って魔族の窓口としてしばらく働くように。」
「了解しました!」
フェーンの命令にゴルフは背筋を伸ばして大きな声で返事をした。
「領事だったっけ?ゴルフ領事って役職名でどう?」
タカシの進言をフェーンは受け入れた。
「では、ゴルフ領事。頼んだ。…特に任命に当たって渡せるものが無いので、これをもって領事の証にしよう。私が折らなければ逸品だった。」
「いいですね。」
フェーンがゴルフに渡したのは鞘に収まった折れた長剣だ。
「身にあまる光栄!!我が命とリザードマン族の名誉にかけて勤めます!!」
フェーンは満足そうに頷いた。そして、この地に残る者を何人かゴルフの補佐につけて、自分の持っていた小さな皮袋を手渡す。
「足りなければ王宮に使いを出せ。当面の活動資金だ。駅舎に残ってる資金と物資の運用も任せる。これで、皆の報酬も支払ってくれ。」
「承知いたしました!」
タカシはそれを見て、白太子に金貨袋を渡した。
「土地の代金だ。」
白太子は金貨を数えるとしっかりと受け取った。
「賢者さま!どうか証人に!」
タカシは「賢者」という言葉に首をひねるが、止めはしなかった。
「はい!何の証人になれば?」
ボブは駅舎の隅っこに広げた自分の作業場所からとんできた。
「この領地の売買の証人です。ただ、見ていていただければいいのです。」
「はい、わかりました!」
ボブは金貨の枚数を数えるところと、それがフェーンに渡されるところを見た。
「見ました!」
そして、ボブはタカシが餓死しないようにいくばくかの食料を置いて駅舎を後にし、フェーンについて魔族の王宮へと向かった。




