なつかしの駅
「それで、狙うのはあそこなのね。」
「そう。屋根があるところを拠点にしたいからさ。」
タカシがボブを連れてやってきた場所は昔懐かしい魔族の駅を見下ろせる高台だった。前回、トンコロの家から逃げた魔族を追って辿り着いた場所だ。あの時はすぐに無人になった駅だが、今回はがっちり魔族がいる。
「前来た時は魔族の陽動作戦に引っかかったカタチできたからね。今回はその作戦をボブとボクで潰しちゃってるから。」
「よく分からんが、あの建物を攻め落とすというのかね?」
鎧の似合わないヒゲの男性がタカシに話しかけた。キスタラから派遣された役人だ。地図を広げて周りの地形を確認する。
「確かに、あの建物は現在、キスタラの領地とはなっていない。あそこは荘園契約に合致するな。」
役人は何人か護衛も連れてきている。敵地だからだ。実はキスタラの勢力圏を出て久しいので確認するまでも無いはずだが、役人は「ギリギリ、キスタラの圏外である」ことを強調したいようだ。
「ヤソヒネ様、ご確認ありがとうございます。まずはあの建物をワタクシの拠点としたいと考えておりまして。」
「まったく差し支えない。拠点を陥落した暁には、再び連絡をいただければ結構。その時には、領地の地図を発行いたしますぞ。」
ヤソヒネとタカシが呼んだ役人はそれだけ言うと帰ろうとした。タカシが引き止める。
「いえいえ、しばしお待ちください。すぐに空けて参ります。ボブ、いこうか。」
ヤソヒネは顔をしかめた。
「この者らはキスタラの兵士ゆえに、貸せませぬぞ。」
「あ、ボクら2人でやってくるんで少し待っててください。」
タカシはロープの束を担いで眼下の駅を目指して歩いていく。その後ろをボブが追いかける。魔族はざっと40人ほどだろうか。ボブはヤソヒネと護衛に術を見られて騒がれるのは面倒くさいので、適当な茂みに身を隠すと雲散霧消した。霧となったのだ。
…そういえばタカシに術のことを教えてなかったや
そう思いながらボブはタカシを追い越して駅に辿り着く。ボブは眠り薬を大量に抱えて霧になったので、魔族の口にそれらの薬をやはり霧状にしてどんどんねじ込む。魔族たちは薬を盛られたことにも気づかずにどんどん倒れていく。タカシはトンコロの家で魔族を待ち伏せした時と同様、ボブがなにか術を使っているのだろうと考えてはいたが、まさかボブ本人が霧になってこの一体に充満しているとは思ってもいない。ただ、この際、タカシがボブが何をしているか理解する必要は全くないのは理解していた。タカシはバタバタ倒れる魔族を順番に縛り上げていく。
「…なんだあの術は!?」
ヤソヒネは高台から望遠鏡でその様子をずっと見ていた。魔族がこちらに気づいたらいつでも逃げられるようにだった。タカシは額の汗を拭い、ふうふう言いながらロープを繰る。
「44人縛ったぞ!これは疲れる!」
ボブは作業の終了を見届けてから茂みから出てきた。
「お疲れタカシ。」
そこへヤソヒネと護衛が駆けつけた。
「さすが武術大会を優勝しただけのことはある。なかなか優れた技だった。」
脂汗をかきながらヤソヒネは努めて平静に言った。タカシは深々と頭を下げた。
「お褒めに預かり光栄です。実はこれは…」
ボブはタカシが何か言おうとしたのを制止した。
「タカシ、それよりも役人さんたちに建物の中も見てもらおうよ。」
「あ、うん。」
ボブはあまりこの役人が好きではなかったので、手の内は極力知られたくなかったのだ。
「いや、それには及ばん!及びませぬぞ!」
ヤソヒネは魔族の何人かが目を覚ましたのに気づいた様子で腰が引けていた。幾ら縛られているからと言っても、彼にとっては魔族は魔族なのだ。
「ひとまずこの建物の周辺はこれぐらいまで領地として認めるよう手続きしておく。今後のことを考えると測量技師を雇うとよかろう。キスタラに戻った折には私を訪ねよ。有能な技師を紹介する。」
ヤソヒネはそういって地図を置いて帰っていった。




