風の吹く世界
「ボブさん!やったのう!お主はこの世界の成り立ちに気づいたのう!」
小屋に入った賢者は、置いてあった木箱にどっかりと腰掛けて上機嫌だった。
「多分、そうだと思います。結局、この世界は意思の強さの世界で、全てのものに意思が…宿っていて…なんていうか太陽が出ると月が見えなくなるように、弱い意思は強い意思がまぶしくて見えなくなるというか…そういうことですよね?」
シーナはそう語るボブを知らない人を見るような顔をして眺めている。賢者は笑顔で頷きながら聞いている。
「恐らくその通りじゃ。言葉で完全に表すことは不可能じゃが、全ての事象は程度の違いはあれ『欲望』のようなモノを持っておる。その『欲望』が無いところには何も無い。強い欲望を持つ我々のように考える存在が居なくなったら、この世界は今の形を保てなくなるじゃろうな。」
ボブは大きく頷きながら答えた。
「だから、その欲望が希薄なモノを組み合わせても、私たちが見ていない時には期待したようには動かないってことですよね。」
「その通り。他の転生者が全く理解できないのがその概念じゃ。やつらは井戸を掘ったら地下の水脈に当たって水が出ると信じておるがそれはまやかしじゃ。」
シーナが「え!?違うの!?」と呟いた。
「シーナよ、それは賢い人間が賢くない世界を理解するために後から考えた『理屈』じゃ。これは口頭で説明しても伝わらん。賢者とは賢い者ではない。賢くある事をあきらめて世界を感じることにした者を言うんじゃ。これは内緒だぞ?バカがばれるからな。」
ボブと賢者は笑っている。
「え?じゃあ、ボブは井戸の仕組みが分かるの?」
ボブは笑いながら答える。
「人間が水が欲しくて井戸を掘るだろ?人間が穴を掘るまで地中は何モノでもない世界なんだけど、その何モノでもないモノが、だんだん井戸が湧かなきゃいけない気がしてきて、結局、井戸になっちゃうんだよ。」
シーナは目を固く閉じて眉間を押さえた。
「ヤバい。話を聞いてると頭おかしくなりそう。」
賢者はシーナの頭をなでながらボブに語った。
「『欲望』はなぜ生まれるか分かるか?」
ボブは急に黙った。考え込んでいる。
「外に出て風に当たってみろ。いつか、風は壁や大地を突き抜けて吹くのがわかるはずじゃ。世界に満ちる混沌の風が『欲望』を生み出す。その風を感じ取れば、ボブさんの手の届く範囲で、手の届く範囲のことが出来るはずじゃ。」
そういって賢者はローブの袖の中から緑に輝くワンドを取り出す。
「これが分かるか?」
ボブは自分も真似しようとしてみたが出来なかった。
「ボクには手が届かない場所の術なんですね?」
賢者は頷くと袖の中にワンドをしまう。
「ワシも元は薬屋だったんじゃが、まあこういうことができるようになった。ボブさんが何が出来る者なのかはワシにも分からん。」
「え、なに?どういうこと?グリーンワンドを出してしまっただけだよ。」
ボブはシーナの言葉に頷いた。
「シーナの言う通りなんだ、ただ、師匠はグリーンワンドを持ってないんだよ。師匠、タネを教えてもいいですか?」
賢者は頷いた。
「あれは師匠の左腕だよ。師匠がローブを着ているのは術のためだ。ローブの中がどうなってるのか分からないのを利用して左腕をワンドに変えて取り出してるんだ。」




