はじめてのクエスト
「まずは、君たちが持っている荷物の中から棍棒か修行者のワンドの好きな方を取り出して装備してみて欲しい。棍棒はファイターの入門用の武器で、修行者のワンドはマジックユーザーの入門用の武器だ。好みで選んでくれ。」
タカシはひ弱な自分にはワンドがいいと思った。ボブは棍棒が良いと思った。
「よろしい。武器は戦闘中でなければいつでも変える事が出来るぞ。そのときに武器に会わない防具をつけていると防具が自動的に外れてしまうが、今はまだその心配はないはずだ。それでは試しに武器を変えてみよう。」
タカシもボブも棍棒とワンドを持ち替えてみた。
「あっ…」
「オゥ…」
2人は声が出てしまった。持った瞬間、力が流れ込むような衝撃を感じたのだ。
「ボブ…ボクは棍棒の方が向いてるみたいだ!」
「ボクもだタカシ!ボクはワンドの方がぴったりくる!」
タカシは大柄なボブは棍棒向きだと思っていたし、ボブも小柄なタカシはワンド向きだと思っていたが、実際は逆だということなのだろう。目の前の冒険指導教官は2人の様子にはあまり興味を示さなかったが、次の指示を出した。
「それでは2人とも前庭の門を出てすぐのところにある兵士訓練所へいって、次の指示を聞くんだ。この世界を救ってくれよ。」
2人は走り出した。早くこの力の正体を確かめたかったのだ。兵士訓練所には何人もの新兵が訓練用の木偶を相手に戦闘訓練をしている。兵士訓練教官が2人を見つけてやってきた。
「良く来たな、話は聞いているよ。ビシバシしごいてやるから覚悟しろよ。」
ボブもタカシも「頑張るのはいやだな」と思いながらも、この力の正体に早く辿り着きたい気持ちを抑えられない。うずうずしている。
「まず、あそこにある訓練用の木偶相手に攻撃をしてみろ。すぐにレベルが上がるはずだ。ファイターでもマジックユーザーでもレベルが1になったらオレのところに報告に来てくれよ。」
林のように立ち並ぶ訓練用の木偶と、訓練の熱気に圧倒されながらも、2人は手近な木偶に駆け寄る。まずボブがワンドで直接殴ろうとするが、殴る寸前に何か違和感を感じた。
「あれ?ボブ?」
ボブの様子に声をかける。ボブはワンドを握る自分の右手をじっと見つめている。
「こうじゃない…」
数歩下がるとボブはワンドを振った。光の玉がワンドから飛び出した。そして訓練用の木偶に当たり光を放ちながら爆散する。光の玉はわずかに木偶の中心を逸れたようで、木偶はその場でガラガラと回転している。元々、殴られたエネルギーで回転するモノなのだろうが、他の新兵たちがどれだけ殴っても少し向きが変わる程度の木偶の回転がまだ止まらない。
「すごい…ボブ…」
周囲の新兵たちも一瞬動きを止めた。なぜならボブ以外のワンドを持っていた新兵は全員ワンドで直接木偶を殴っていたからだ。彼らはいつか魔法も使えるのだろうと思いながらワンドで殴っていたのだが、ボブの素質を目の当たりにして何人かはワンドを棍棒に持ち代えはじめた。そうしている間にもボブは光の輝きに包まれる。レベルが1になったのだ。
「ボブ・・・すごいよ…」
「ぐ…偶然?」
ボブも戸惑っている。
「…ボクもがんばらなきゃ!」
タカシは慣れない手つきで棍棒を構える。丸太を加工した鈍重な木偶にはたくさんの傷が刻まれていて、先人の修行の厳しさが見て取れる。意を決して棍棒で横なぎに木偶を殴りにいった。勢いあまって回転し、足がもつれて転ぶ。
「…アハハ…やっぱり、僕こういうの向いてないね…」
恥ずかしそうに立ち上がったタカシを光が包んだ。レベルが上がったのだ。しかもレベル1を飛ばして一気にレベル2だ。タカシは何か異変に気づく。自分の中にレベルアップの力が流れ込むのが分かる。ただ殴って転んだだけなのに。周りを見ると全員が木偶を殴るのをやめている。
「・・・ぼ…ボクそんなにみっともなかった?」
ボブは目を丸くしてタカシの肩を叩いた。
「すごいよタカシ!この訓練場に並んでるの半分ぐらいの木偶に攻撃が当たったんだ!範囲攻撃だよ!」
言われてタカシが見てみると、タカシを中心に半径5mぐらいの木偶が全て回転している。ボブは何となく気が焦って訓練所の端にある離れた木偶に光の玉を放つとボブのレベルも2に上がった。
「すいませんレベルが1になりました。」
兵士訓練教官に報告するボブとタカシは得体の知れない興奮に包まれていた。