魔族の願い
「いい具合に集まってるね。ボブなんかいい魔法持ってないの?」
「ちょっとやってみるね!」
周囲を囲まれて押しつぶされそうになっている先鋒隊を外から見ながら、ボブとタカシは現状打破を試みた。
「落雷とか。」
晴天から急に雷が落ちる。直撃していない魔族までゴッソリ倒れた。
「水平に雷撃つ奴無かったっけ?」
タカシはあまり魔法に詳しくない。ボブはタカシが言っている魔法は多分これだろうとワンドを構えた。
「雷の矢!」
水平に雷が飛んでいくと、魔族の群れを貫通して直線状に魔族をなぎ倒した。
「そうだ!あとこれもあったよね!爆裂火球!」
真っ赤に燃えた炎の玉がボブの手からやまなりに飛んでいく。着弾点で爆発する。
「ギャー!!」
タカシは「雷の魔法は意外と悲鳴が出ないのかも」と新しい発見のきっかけをつかんだ。
「ボブ、もう一度、雷の矢を撃ってみて。」
「せーの…雷の矢っ!」
タカシが耳を澄ませると、微かに「ギャッ!」と聴こえている。
「ボブ、ごめん。もう一度、爆裂火球。」
「まかせてタカシ!爆裂火球!!」
再び炎の玉が敵陣に投げ込まれる。ドゴーンという轟音を上げて爆発する音に混じって確かに「ギャー!」と大きな叫び声が聴こえる。
「ボブ凄いよ!雷の魔法はやられた時の声はあまり出ないけど、炎の魔法は結構大きな声で叫ぶんだ!」
「すごいねタカシ!大発見だね!」
魔族に押し込まれている先鋒隊の主力はその様子を何となく感じ取っていた。
「おい!お前ら本気で助けろ!回復が間に合わなくなってきてるんだチクショウ!!」
それを聞いてボブとタカシははっとした。
「そうだ、ここは戦場だ!ボブ!いこう!」
「うん!タカシ!」
タカシは上級の魔族にこんな単純な術が効くのか半信半疑だったが、試しに盾を叩いてみた。
「全員じゃないけど結構釣れる!ボブ、ついてきて!」
タカシは盾を叩きながら走り回ると、おびただしい量の魔族がついてきた。
「ボブ!ギャーの方をお願い!」
ボブがファイアーボールで敵を殲滅していく。中に味方が混じっているわけでもないので、さほど狙いも定めずにジャンジャン投げる。
「ニギャー!」
「ギャース!!」
タカシはボブが魔法を当てやすいように敵を誘導している。
「ボブ!合図したら僕に向かって雷うって!」
「オーケー!」
タカシは出来るだけ敵を一直線になるように誘導して合図とともに横へ逸れた。
「ギャ!」
一直線に並んだ魔族がライトニングボルトで一気に倒れた。タカシは狙い通りだったが、せっかく大事に長く長く育てた魔族の列が一瞬で消えてしまった事になんともいえない虚しさを覚えた。もうタカシを追ってくれる敵はいない。とぼとぼとボブのところに帰った。
「ボブ、分かったんだけどやっぱりボクは火の玉の方が好きかも。」
「ごめん、タカシ。」
「いや、いいんだ。ボクがお願いしたんだし。」
いつしか戦場には魔族は数えるほどしかいなくなっていた。タカシの盾を叩く術に抵抗できる高位の魔族だけだ。
「お前ら一体なんなんだよ!」
魔族の中には人間の言葉が喋れるのもいる。戦いを止めてボブとタカシに向かって叫んだ。
「こんなにも多くの同胞が失われてしまった!」
本気で嘆いている。だんだんと他の魔族も戦うのをやめ始めた。
「そんなコト言われても、元々そっちが変な罠にはめようとして来たんじゃないか!」
タカシが反論する。
「我々魔族は人間が必要なんだ!お前たち人間は魔族が必要で殺すわけじゃないだろう!?」
「どういうこと?」
いつしか全員が戦うのをやめていた。
「オレたち魔族は、結婚式や成人の儀式、そういうときに人間が必要なんだ!人間が振る舞われるのを楽しみに皆が式に参加するんだ!ここ何年もオレたちはまともに人間にありついてないんだよ!結婚式も挙げられない!」
タカシは盾とショートソードを地面に投げ捨てると、嘆く魔族の方へ歩き始めた。
「流石に今回は何人か人間も死んだでしょ?それじゃ不満なの?」
魔族は首をうなだれながら横に振った。
「こんなのはオレたちの望んでいた結末じゃない…」
次の瞬間のタカシの動きは速すぎて、その場を見ていた誰一人として声も挙げられなかった。
「絶滅しようよ?」
タカシは背中に佩いていたロングソードを抜きざまにその魔族を両断したのだ。そのまま、ロングソードを担いでけだるそうに走るタカシと生き残った魔族たちは夜まで鬼ごっこを続けた。




