タカシ~転生~
タカシ~転生~
ヒーローに憧れている。でも現実の世界にはなんかぼんやりとした悪いものがあるだけで、世の中の悪いことを全部一手に引き受けてくれるヴィランはいない。だから戦う相手もいない。世の中のぼんやりとした悪と戦う側の人間もぼんやり悪い人に見える。どっちが正義でどっちが悪かも分からない。ボクはというと戦うほど体も丈夫ではない。通学途中、スマホで新作映画の紹介記事を読みながら、だんだん白けていった。電車に押し込まれるように乗ると…あれは痴漢じゃないのか?ボク以外に気づいてないのか?確信が持てない。しっかり見ようにもボクは背が低い。すぐに視界がさえぎられてしまう。
「やめなさいよ!」
ボクが迷っていると別の女性が痴漢されている女性と痴漢しているであろう若い男性の間に割って入った。そこからは一大事だ何となく他の乗客と一緒に田舎の駅のホームに下りたボクは駅員を挟んで口論している痴漢されていた(?)女性と割って入った女性を見ていた。女性二人はだんだん劣勢になっていった。それを見ながらボクは「痴漢していたのは、あの男性のような気もするし、違う気もするし…」と迷っていた。確信があっても泣きじゃくる女性とキレまくる女性、そして妙に屈強な駅員と今にもあばれだしそうな男性の間に入っていくのは困難に見えた。人だかりもある。痴漢されたわけでもないボクは心臓が張り裂けそうだった。
「誰か他に見た人は?」
駅員の呼びかけに応える人はいない。ボクはまぶたの裏の記憶を何とか鮮明にしようと目を閉じた。そういわれてみると特徴的な腕時計をしていた気がする。人ごみの中に妨げられて容疑者扱いされている男性の手首が見えない。何とか回り込んで移動しようと思ったそのとき、ボクの右足は空を切った。
「あ」まるで
ホームから転落するボクに気づいた中年女性の顔が引きつっていく様が、スローモーションのように感じた。
気がつくと背中に硬い感触がある。てっきり線路の上に仰向けに倒れているのではないかと思ったけれど、そうではないみたいだ。フードをかぶった連中に囲まれている。駅員ではないらしい。鼻を突くひどい匂いが煙とともに立ち込めている。フードの連中は「成功だ!」と口々に呟いている。
「…痴漢は?」
気がかりだった事を呟いてみたが、ここは普段通り過ぎるだけの人気のない駅ではなく、何やら異様な内装の小屋の中だった。その後の展開から話を整理するとこうだ、この世は魔族に支配されつつあって、劣勢と見たこの世界の人族たちは異世界からこの世界を救う人間を召還しようと試みたのだそうだ。ボクはその話を聞きながら「それって、異世界転生じゃないの?」と思って、体のあちこちを叩いてみたり、頬を触ったりした。
「…夢…じゃない?」
思わず呟いた自分の言葉に身震いがした。この言葉を言える日をずっと夢見てきたんだ。