追跡
洞窟を出てしばらく街のほうへ戻ったところで盗賊が立ち止まった。
「監視が消えたな。」
学者が高かったテンションを元のレベルに下げてなめし皮の文書について説明し始めた。
「この小箱いっぱいの金貨は人間の隊商から強奪したもので、魔族の軍資金にするべく魔族の本隊に届けるように書かれています。それを引き取りに来る者のために魔族の司令本部の場所への行き方も書かれていますね。魔族の言語です。まあ、そこそこ読める人間は多いですよ。これが罠の核心でしょう。この情報を人間が得たら、そこに総攻撃をするだろうと…そして、恐らくは何らかの策略で誘い込んだ人族の軍を一気に叩くとそういう計画でしょうね。」
盗賊は「そんなことのためにトンコロを殺しやがって…」と肩を落とした。
「オレはオレたちを監視していた魔族の後を追う。学者と神官は急いでキスタラの官庁にこの件を報告してくれ。転生者は…正直一人では心細い。一緒についてきてくれないか。」
ボブとタカシは頷いた。盗賊はなにやらメモを書くと神官に渡した。
「これは盗賊ギルドのギルドマスターに。」
「引き受けました。」
5人は荷物を分けて支度すると、2つのパーティーに分かれた。
「盗賊さん、神官さんと学者さんで帰り道は大丈夫なんですか?」
盗賊は早足で歩きながら頷いた。
「大丈夫だ。伊達に官庁に集められた人間じゃない。特にあの神官はキスタラでは有名な喧嘩上手だ。一時流行った邪教の信者が召還した邪神を銀の燭台で刺殺したって話はキスタラでは有名だぜ。」
タカシはなぜか「ほう」と声に出した。ボブはその「ほう」はどこの目線なのだろうといぶかしく思ったが、そもそもボブもタカシも人間づきあいが苦手なのだ。会話もしかり。
「さて、そろそろ追いついちまうかもしれない。」
盗賊が姿勢を低くした。夕刻が近付いている。
「敵の魔族が夜目が効くとしたら、追いかけている俺たちの方が不利になる。もし、向こうがキャンプするとしたらあまり近づけない。向こうに発見される危険を考えると当然、コッチは火を使えない。」
盗賊は懐からなにやら取り出した。
「暗闇でも見える双眼鏡だ。ギルドの宝物庫から拝借してきた高級品だ。」
ボブとタカシはどんどん暗くなる夜の林の中で心細さを感じ始めていた。
「見えた。野営するつもりだな。火を起こす準備中だ。」
盗賊に促されて今来た道を少し戻る。逆に発見されるとまずいからだ。遠くのほうからフクロウのような声が聴こえる。盗賊は懐から笛を取り出し、別の鳥の鳴き声を真似た。
「1日遅れで盗賊ギルドから派遣された後続部隊が、オレが道沿いに残したマークを発見して連絡してきたんだ。合流するぞ。」
キスタラ東部、国境地帯の夜は更けていく。




