言いたかったこと
聞いた話はこうだ。タカシの寵愛を受けていた娘を妬んだ別の娘たちが、その娘を襲って殺した。激昂したタカシが殺害に関わった娘たちを殺し自害した。自害したタカシの遺骸を守ろうと火葬にした娘が、タカシの遺骸を狙っていた別の娘に殺された(その殺した側の娘は屋敷から逃げ出したらしい)。そして、多くの娘が館を出て行方知れずになった中、この娘は館に残った。
「よくわかりました。ありがとうございます。」
タカシの家には倹約家のシーナみたいなのはいなかったのだろう。逃げた娘たちによって多くのモノが持ち去られてしまったらしいが、残されていた椅子に腰をかけると、この椅子もなかなか上等なモノだろうなと分かる。ボクは大きく息を吐き出して、何とか肺を軽くしようとしたが、肝心な嫌な息は大部分が肺の中に残っているようで、浅く息をしても、深く息をしても、何も世界は変わらなかった。
「…クソやろう」
居なくなったタカシに悪態をついた。タカシはまた何度目か分からない転生をしているのだろうか。そして、ボクが出会ったあの時よりも、さらに強い転生者として、戦士として生きるのだろうか。
「クッソ…」
ボクも一瞬だけど同じ夢を見た。クソみたいな生まれたあの世界を抜け出したときから、異世界転生とチート能力でハーレム生活を夢見た瞬間があった。
「なんで…何も相談してくれなかったんだ…」
ボクにはシーナがいて、一人の人を大切にすることで、自分の人生は充実するんだと、きっとそれが幸せなんだと思いなおした。確かに、その幸せは間違いなく存在して…でも、今、思い返すと。
「タカシがいたから!タカシがいたから!…2人だったからボクらはがんばれたんじゃないか!」
視界が涙で歪む。間抜けな音を立てて木の床板に涙が滴る。
「なんとなくだけどね。ボブとタカシが何のために頑張ったのか分かるんだ。間違ってたらゴメンね?賢者ボブはもっとタカシに話したいことがたくさんあったんじゃないか?タカシという転生者に、心のどこかで『キミは間違ってる』って言いたい気持ちがあったんじゃないか?」
いつのまにか膝から崩れて泣いていたボクにポーが語りかける。わき腹の引き出しを開けると中からハンカチを出して、ボクに渡してくれた。
「賢者になるとね…きっと、今いる賢者の中では、このボク『ポー』が一番古い賢者…死なないからね…一番年寄りの賢者だと思うんだけど。」
ボクはポーがくれたハンカチを折りたたんだり開いたりしながらその話を聞いていた。
「世界のことなんて何も分かってないじゃんね。ぶっちゃけ、世界のことが分からないことが分かったから賢者になったって…みんなには言っても信じてもらえないけど、ボブは分かるからね。だから、心はすごく低いところにあるんじゃない?『わからないなあ、わからないことたくさんあって世界はすごいな』って言うのが賢者って呼ばれるボクらだから。」
ポーの話は的を得ている。ポーの口調に救われている自分に気づく。
「世界の姿を悟っていない賢者じゃない人を見ても、すごい人ってたくさんいるわけですよ。でも、皆さんは『賢者サマ』のお言葉を待ってるわけです。確かに少しは良いことも言えるかもしれないけど、でも、賢者サマの言うことに逆らったら絶対に悪…みたいな空気がある中で、友達に忠告なんて出来ないジャン。そもそも、忠告するほどボクは偉くないし。」
そう言いながらポーは窓を開けた。
「だから、何もいえなくなっちゃうんだよね。もし自分が賢者じゃなかったら、絶対に言っていたであろうことが、何にも言えなくなっちゃうの。みんなが賢者の言うことは正しい…って思ってる限りは。」
窓の外に向かってポーはため息をついた。




