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動機不純ヒーローズ  作者: 古川モトイ
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ボブ~転生~

 異世界転生…それは全ての人間の夢だ。現実では冴えない自分も、異世界にいってチート能力を身につければたちまち成功者になれる。現実世界の手垢のついたリア充ではなく、自分だけのリア充を自由に表現するのだ。このときに異世界にいったら自分が劣等種族になって最弱から最後まで抜け出せなくなったり、科学文明が地球よりもずっと進んでいて、社会の最低偏差値から自分が抜け出せなかったり、異世界と言いながら現実の社会とほとんど変わらない社会で同じヒエラルキーにそのまま組み込まれたり、そもそも人型の生命がいない世界で美少女の影も形もなかったり…そんな設定はありえないのである!なぜかと言うとそれは異世界ではなくただの「都合が悪い世界」であって何の爽快感もなく、ただただ惨めさから抜け出せない自分を再認識させられるだけの世界だ。だからそれは出来ない。異世界転生という性質上どんなにそっちの可能性の方が高かったとしてもそれは出来ないのだ。むしろ、そんな異世界転生をしてしまったヤツの事は誰も描写してはいけない。むしろ、「どんなにそれが異世界転生だったとしても、誰にも知られずにひっそり死んで下さい!」と懇願するレベルだ。異世界転生では努力もだめだ。努力して上手く行った人間は現実世界で散々見せられている。努力して上手く行くなどということがまかり通れば、異世界に転生した意味が薄いのだ。楽して爽快感が得たいのだ。努力せずに欲望を満たしたいのだ。現実のヒエラルキーを意識したくないのだ。それが異世界転生のモラルだ。もう打ちのめされたくないのだ。ただ、欲望はそこはかとない。このくだらない人生を逆転するには異世界転生しかない…そう思っていた彼らを異世界転生の末に、再び果て無き努力の道に叩き落したのは、やはり欲望であった。

ボブ~転生~


 冴えない自分に嫌気がさしたのはいつの頃からかもう覚えていない。僕は気づいたときにはデブで、野菜をもっと食べないといけないとは分かっているので、フライドチキンは控えてピザやフライドポテトを出来るだけ食べるようにしている。選べるときは野菜の入ったバーガーを心がけて、ケチャップはいつも少し多めにかけているし、炭酸飲料だってコーラではなくフルーツ味のものを心がけて飲んでいる。でも、現実は厳しかった。ボクの体重はいつしか100kgを超えて小学校で一番のデブになった。中学校でもトップの成績をキープした。ダイエットにはリンゴがいいときいていたので、月に1個、リンゴを買った。ボクのお小遣いではそれが限界だった。

 ある日、家からそう離れてもいないストリートを歩いていたら、頭の上から何か落ちてきた。べっとりした感触に戸惑ったがそれが青いペンキだと気づくのにそう時間はかからなかった。上から笑い声が聞こえた。ペンキが目に入らないように注意しながら上を見ると同級生のアメフト部の連中がペンキを塗るための足場みたいなところから指をさして笑っている。何でこんな事をされなければいけないのか悲しい気持ちになっていると、通りを走ってきた車の中から拳銃で撃たれた。薄れ行く視界の中で、赤いキャップと全身赤い服に身を包んだギャングたちが「何で撃った!?あいつはただの太ったガキだし、あれはただの青いペンキじゃねえか!?」「バカ!ずらかるぞ!」と口論しているのが見えた。それで終わりだった。


 気がつくと背中に硬い感触がある。てっきりアスファルトの上に仰向けに倒れているのではないかと思ったけれど、そうではないみたいだ。フードをかぶった連中に囲まれている。違うタイプのギャングかと思ったがそうではないらしい。鼻を突くひどい匂いが煙とともに立ち込めている。フードの連中は「成功だ!」と口々に呟いている。


「あれ…銃で撃たれたはずなのに!?」


恐らく撃たれたはずであろう胸には何もなかった。その後の展開から話を整理するとこうだ、この世は魔族に支配されつつあって、劣勢と見たこの世界の人族たちは異世界からこの世界を救う人間を召還しようと試みたのだそうだ。ボクはその話を聞きながら「それって、異世界転生じゃないの?」と思って、体のあちこちを叩いてみたり、頬を触ったりした。


「…どうも夢ではないらしい。」


思わず呟いた自分の言葉に身震いがした。この言葉を言える日をずっと夢見てきたんだ。


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