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6月27日(日) 私だけ曝け出すのは不公平じゃん

 テスト前の貴重な土曜日を、生意気な後輩に費やしてしまった柊は、日曜日の朝から現代社会の勉強に勤しんでいた。彼は英語や理数系を日頃から勉強しておく代わりに、暗記系の科目は試験前に一気に詰め込む主義だ。


 現代社会は穴埋めのプリントを用いて授業を行っており、テストもほぼ空欄から出される。そのため、同級生は赤シートで隠せるように、初めからオレンジのペンで書いてしまう者が大半だった。


 しかし、柊は授業中は敢えてシャープペンシルで書くようにしている。そして、試験前に、穴埋め部分の単語を教科書・資料集・用語集を総動員して理解を深めつつ、丁寧にオレンジペンで書き直す。それだけで丸1日近くかかってしまうが、これが終わった時点で、大体の事項のあらましは頭に入ってしまう。あとは、赤シートで周回しつつ、覚えづらい事件名や人名などをピックアップして別に表を作り、裏紙に何度も書き出す練習をする。これだけで、80点台は確実に取れるのだった。




 ふと外を見れば、今日も小雨が降っている。たまに思い出したように強くなったり、弱くなったり。そんな雨音(あまおと)をBGMにして、生物基礎と現代社会の勉強を進める。1日中指と腕を酷使した結果、夜には鉛筆を握ることすらできなくなっていた。

 さすがにそれ以上は勉強することを諦め、風呂を済ませて布団に寝転がる。スマホをいじっていると、ふと姫川からかかってきた電話を思い出す。


 よく考えると、昨日からまともに彼女の声を聞いていない。1日勉強した疲れもあり、姫川の声に癒やされたくなってトーク画面を開く。


 しかし、女子相手に通話などしたことのない柊にとって、好きな女子に電話をかけるハードルは高すぎた。通話開始のボタンを前にして進めなくなった結果、チャットに逃げる。


『今何してる?』


 5秒ほどで既読がついたことに気づいた柊は、慌ててトーク画面を閉じる。


『勉強しなきゃと思いながらスマホいじってる。そっちは?』


 その返事を通知で確認した後、一呼吸置いてから再度トーク画面を開く。


『こっちもそんな感じ。朝から勉強してたから腕疲れた』


『朝から勉強してたんだ、偉いね。私は今日試合だったんだけど、6試合もとったからもうくたくた』


『そんなにたくさん試合するんだね』


『まあ、勝ち進んじゃったからね』


『てか、疲れて文字打つのすらしんどいんだけど、通話にしていい?』


 願ってもいない先方からの通話の申し出に、心の中で欣喜雀躍(きんきじゃくやく)しながら、トーク上では平然と返す。


『もちろん。俺も勉強しすぎて指震えてるからそっちの方が都合良い』


 数秒して、通話がかかってくる。


「ども」


『ども』


 挨拶を交わしたあと、唐突にしばしの静寂(しじま)が訪れる。それを振り払うように、柊の方から話を振った。


「試合お疲れさま。結果どんな感じだったの?」


『優勝したよ』


「…………」


 平然とした口調とは裏腹の予想だにしない回答に、意表を突かれて黙り込む。


『まあ、県規模の非公認大会だし、そんな上の級じゃないから大したことじゃないんだけどね』


「いや、さして競技かるたに造詣のない俺でも、それがたいしたことじゃなくはないのは分かるよ」


『あはは。ありがと』


 いつもと同じように明るい受け答えだが、いつもよりも多少の疲れと憂いを帯びていた。


「声が疲れてるけど大丈夫?」


『あ、ばれた? まあ、いろいろとあってね』


「そうなんだ。詮索する気はないけど、愚痴りたかったら聞くよ。口の堅さには自信あるし、どうせまた女子の友だちには相談できない系なんでしょ?」


『あはは、浅宮くんってもしかしてエスパー? 弱点はあくタイプ?』


「うーん。あくは分かんないけど、ゴーストにはそんなに弱くないつもりだけど」


『確かに、そんな感じする』


「で、どうしたの?」


『あ、えとね。ぶっちゃけて言うと、男子の先輩とか同期とかから、『優勝おめでとう!』『今度お祝いに飯奢らせてよ』みたいな連絡が来てて。それも何人も立て続けに。せめてまとめて来てくんないかなって感じ』


「ああ、なるほど。別にご飯奢ってもらうくらいならいいんじゃないの?」


『嫌。下心感じて気持ち悪いし、美味しいご飯もまずくなりそうでご飯に申し訳ないから』


「……容赦ねぇ」


 そこまで言うか、と流石に周りの男子が不憫になる。


『こうやって通話してる間もきっとまた連絡来てるんだよ。ああ、通話切りたくない』


 そういう意味ではないと分かっていても、にやけてしまう。このお姫様はこうやって定期的に柊の心に刺さる言葉を繰り出してくるからやっかいなのだ。それも不意打ちで。


『そもそも、のんきに女子に連絡してる暇があったらその時間使って札覚えろよって話だよね。もう6月も終わるのにまだ百枚覚えてないとか信じらんないんだけど。あんなのその気になれば3日あれば覚えられるのに、その努力すら惜しんで、努力の方向が明後日過ぎるんだよね』


 一度口からあふれ出した愚痴は(とど)まるところを知らず、そこから延々と愚痴を聞かされることになった。他の友人なら不愉快にもなっただろうが、姫川から愚痴を聞かされるのは、何か信頼を得たような気がして少し嬉しかった。


 結局30分ほど愚痴を聞かされた後、姫川が唐突に我に返った。


『さっきから愚痴ばっかり聞かせちゃってるよね、ごめん』


「大丈夫だよ。姫川っていろいろと大変そうだなって思ってたけど、そんなに苦労してたんだね。むしろそれを知ることができて良かったかな」


『なかなか他の人にも話せなくて、すごいいろいろ溜めこんじゃってたけど、全部吐き出して少しすっきりしたかも。お礼に今度浅宮くんの愚痴も聞いてあげるよ』


「いや、俺は別に聞いてもらう愚痴とかないから大丈夫だよ」


『ふうん。その割には昨日武井くんに怒られてすごい表情になってたけどね』


「あ、ばれてた……?」


『まあ、今日はもう時間遅いけど、また機会があったらしっかりと吐き出してもらうからね。私だけ(さら)け出したみたいで不公平じゃん』


「はいはい。じゃあ、おやすみ」


『おやすみ』


 姫川との距離は着実に縮まっているように思う。だけどそれが異性としてなのか、友人としてなのか、柊には判断がつきかねた。そのまま眠りにつく気にもなれず、ブラウザの検索窓に「友だち止まり」と検索して恋愛コラムを読み漁る。





結局寝たのは2時を少し過ぎた頃だった。

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