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自称インキャぼっちは悩みの数だけ彼女がいるようです  作者: 史本 会
自称インキャは後輩女優に翻弄されているようです
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嘘のない言葉

お久しぶりです。これからまた少しずつ頑張っていきます



目を覚ますと誰かの泣き声が聞こえた。


小さなその声はぼんやりとした意識の中、健二の脳に響いてくる。



「健二にいのバカ、私だって我慢してたのに・・・」



聞き慣れたこの声は聖奈のものだ。



「我慢って・・・どういう」



そう呟いた健二に反応し、うつむいていた聖奈はハッと顔を上げた。

その顔は涙に濡れ、ぐしゃぐしゃだった。



「聖奈だよな?」


「健二にい・・・起きていたんなら早く言って下さい」



そう言いながら涙ぐんだ目を袖で拭き顔を晒した。



「なぁ俺あの後どうなったんだ?」


「それは・・・」



聖奈の説明を受け、少しだけあの時のことを思い出した。



“やっぱり本物の家族ではなかった”それが残念で悲しくて、そしてとっても辛かった。

泣きそうだった。今にも涙が溢れそうだった。だけど聖奈の顔を見ていたら何故かそれをしてはいけない、泣いてはいけない。そんな気がした。



「あ、あぁそういえばここはどこだ?」


「え、えっと中央病院ですよ、昔健二にいが来たことのある場所で・・・」



徐々に小さくなったその声を健二は耳を凝らして聞いていた。


“昔”つまりは聖奈達に会ったあと。解離性障害だと分かってからすぐの頃、偽物の家族になってすぐ俺はこの病院に来ていたらしい。



「そう・・・なのか」


「健二にい・・・えっと、その、私そろそろ帰りますね」



何か言いたいことがあったのだろう。少し間を置いた話し方をした聖奈は結局それを言わずに病室を後にした。


何が言いたかったのか、それはこの先も分からない。でもそれを知ったとしてどうこうなる問題でもない。



「はぁ・・・寝るかな」



そうして健二は眠りについた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





寝ているはずなのに、誰かにじっと見られているそんな感じがする。


その視線で健二は目を開けた。


すると目の前にあったのは百合子の顔だ。目を閉じまま少しずつ顔を近づけてくる。



「おい、百合子何してんだ?」



その声に反応して目を開けた百合子は勢いよく尻から地面に落ちた。



「痛っー」


「おい百合子、お前今何しようとしてたんだ?」


「そんなの決まってるじゃないですか!キスですよキス!」



そうじゃないかとは思っていたが、それをこんなにも堂々と言われるとこっちが恥ずかしくなってくる。



「まぁそれはどうでもいいとして、どうしてお前がここにいるんだ?」


「どうでもよくはないですが、それはこちらのセリフです。先輩なんで入院なんかしてるんですか?」


「俺の質問に答えたら答えてやるよ」


「分かりました、教えてあげます」



百合子はそういうと立ち上がってからポーズを決めた。

セクシー?的なポーズだ。



「何してんの?」


「だーかーらー!私って本業女優じゃないですか」


「いや、本業は学生だと思うぞ」


「で私って女優じゃないですか」



この子、俺の話全く聞いてないやつだ。てか理由をさっさと言え、理由を!



「で、その女優さんがこんな病院になんのようですかね?」


「まだ分からないんですか?先輩ってバカですか?」


「なっお前な!」


「ふふふ、冗談ですよ。私今日撮影なんです」


「撮影って女優のか?」


「だからそうだって言ってるじゃないですか」


「へーソウナノカ」



棒読みで返した健二に少し腹を立てた様子を見せる。



「もういいです。で、先輩はなんで入院なんかしてるんですか?」


「言わなきゃダメか?」


「さっき答えるって言いましたよね?」


「でもお前撮影なんだろ?」


「大丈夫です。今休憩中なんで。それに先輩がそんな顔してたら撮影に集中できません」


「えっ?俺そんな変な顔してる?」


「はい、なんか悲しそうな顔してます。だから余計に心配なんです」



普通に話して、普段通り振舞って騙せると思っていた。けどやはり自分の本当の気持ちは外に出てしまうようだ。現に百合子にはバレたのだから俺にはやはり役者は向いていない。



「分かったよ、でも少し長くなるけど大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですよ。ちゃんと聞きますから」


「ありがとう」



百合子のその言葉が嬉しくて涙が溢れそうだった。

けどやはり涙は見せたくない。百合子に見られるのは恥ずかしいから。



「俺が入院してるのはな・・・」



そして健二はおおよそのこのままでの経緯を話した。




「義理の親子に解離性障害ですか・・・これまた難しい話ですね」


「・・・だろ、困っちゃうよな」



また無理して笑顔を作ったが多分ぎこちない笑顔になっているだろう。鏡がないからなんとも言えない。けど百合子の反応を見てそれが分かった。



「先輩、辛いですか?」


「どうだろうな」


「悲しいですか?」


「分からない」


「なら、泣きたいですか?」


「それは・・・」



ピンポイントで指摘されたその言葉に健二は我慢の限界を迎えた。



「泣いてもいいんじゃないですか?」


「でもそれは・・・」


「私にはよく分かりません。義理の親子のことも解離性障害のことも。でも先輩が我慢していることは分かります。先輩が辛そうにしているのも分かります。先輩が悲しんでいるのも分かります。だから、だからもっと素直になってもいいんじゃないですか?」



百合子が何を言いたいのかは分かってる。だけどそれを認めてしまったら今までの人生は、俺の記憶の全てはなんの意味のないものになってしまう。そんな気がした。だから俺は素直になれない。



「悪い、百合子もう撮影に戻ってくれていい」


「私は知っています」


「はっ、お前何を言って・・・」


「先輩がどんな人か知っています。本当は弱い人なのに、表では強がって余裕な顔をすることを知っています」


「違う・・・」


「いつもは冷たく接するくせに、本当に困っている時はいつも手を差し伸べてくれる。そんな優しい人だと知っています」


「そんなことは・・・」


「どんな無茶振りを言われたってそれをやり遂げようと必死で前を向ける、そんな努力家なところを知っています」


「・・・」


「大切な物を守るために、誰かを守るために自分を犠牲にできる。そんな強い人だと私は知っています」


「俺は・・・」


「だから先輩、先輩の知ってる今まではすごく素晴らしいものなんですよ」


「それはどういう・・・」


「だからですね、義理の親子とか解離性障害とかで先輩が今の自分を否定しているのは分かります。でも今の先輩は私にとって、いいえ、私達にとってかけがえのない1人の人間なんです。だから否定なんてしないで下さい。先輩が今の先輩を否定してしまったら、それは私達も否定しているのと同じなんですから」


「自分を肯定しろ・・・と?こんな自分を?」


「はい、いま先輩の知ってる記憶も性格も、その全てが先輩なんですから」


「だけど俺は・・・」



そうして顔を上げた健二の前には涙を目の淵にためた百合子の姿があった。



「私が知っている先輩も、先輩が知っている先輩も同じなんです。その先輩が知っている先輩はさっき言った通りなんです。だから私はそんな先輩のことが大好きで、本当にかけがえのない人なんです」


「百合子・・・お前」


「私だけじゃありません。淵野先輩だって、長谷川さんだって、峯崎さんだって、鮫島さんだってそれに・・・佐倉さんだってそうです。皆さんにとって先輩はかけがえのない人なんです。だからそんな自分を否定しないで下さい。もし先輩が否定するなら私はそれ以上に先輩を肯定します。私だけじゃありません。みんなが先輩を肯定します」


「俺は・・・どうすればいいか分からない」


「いいんじゃないですか、今まで通りで。いつもみたいに、ぶっきらぼうで、強がりで、ツンデレで、でもとっても優しい先輩でいて下さい。それが私の一番好きな先輩なんですから」


「・・・」



何も言い返せない。何を言っていいのか分からない。

でも心から消えていたものが戻ってきたような、いやそれよりももっと温かいものを受け取ったような気がした。



「先輩泣いてます?」



そう言われて指を目にやると我慢していたはずの涙が溢れ出していた。その涙は止まることなく下にこぼれ落ち布団に染み込んでいく。



「先輩、頑張ってくださいね。私も頑張りますから」


「あぁ」



見なくても分かる。百合子の声は演技でもない涙声。その声は百合子の心からの言葉なのだと改めて思うのだった。


そしてその後百合子は袖で目を抑え、笑顔を見せた。



「それじゃあ行ってきますね!」


「うん、行ってらっしゃい」



健二も震えた声を隠すように笑顔で送り出す。


「これじゃ新婚夫婦だな」


そう小さな声で呟き、クスッと笑顔を見せた。




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