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自称インキャぼっちは悩みの数だけ彼女がいるようです  作者: 史本 会
自称インキャは後輩女優に翻弄されているようです
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決意と真実

お久しぶりです

センター試験終わってひと段落です。




“ただいま”も言わずにそっとドアを開けた。


静かに閉めたドアの音に気づくことはなく、聖奈も出迎えては来なかった。


俺はホッと一つ息を吐きそれから自分の部屋に向かった。



まだ顔を合わせたくなかった、何を話していいか分からなかった。

俺はまだ逃げていたかった・・・。



部屋に入ってから、ひとまず横になった。これからどうするかを考えるために体だけでもリラックスさせておきたかったのだ。



横になり目を閉じた、とその時

トントン!

とドアをノックする音が聞こえた。



「帰ってきたんですか?」



そうドア越から聞こえてきたのは聖奈の声。いつもならドアを開けて笑顔を向けて・・・というところだが今の状況でそれをするのは健二にとってセンター試験よりも難しいことだった。



何度か聖奈の声が聞こえたが、それに対して返事をすることもなくベットにうつ伏せになった。


それから目を開けたまま、これからどうするのかを考え始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




リビングに下りると家族全員揃っているようで話し声が聞こえる。


少しだけ考えるはずだったのだが気づいたら2時間以上も考え込んでいた。


だがおかげで結論が出た。


“勇気を持って今の両親に聞いてみよう”

これが今俺にできる精一杯だと思ったからだ。



そしてリビングのドアノブに手をかけた。


少し緊張するし、それに不安もある。


でもここで開けなかったらいつまで経ってもこのままだ。


そして俺はドアノブを下げ、前に押した。



開けたドアの向こうにいたのは父、母、健一兄さんに聖奈。


なぜかは分からないがみんな心配そうな顔をしていた。



「た、ただいま・・・」



決心したはずなのにそれを表に出すのは難しい。言いたいことはいっぱいあるのに言葉にならない。



そしてしばらく無言が続いた。




「け、健二帰ってたんだな」



ぎこちない父の笑顔とともに静寂が断たれる。



「ま、まぁね」



この後の切り出し方が分からない。思っていることを言えばいいのにそれが本当に難しい。



その後再び静寂が続くと思ったが、それを聖奈が上手く繋げた。



「健二にい帰って来ていたなら一度リビングに寄って下さいよ」



「・・・ごめん」



謝ることしかできない。こんなにも自分がヘタレで臆病なのだと今思い知った。



4人とも俺を見ている。注目を浴びている。学校で友達が出来て少しは慣れたはずなのに、足の震えが止まらない。


いや、そうじゃない。これはきっと緊張とかじゃなくて脳が本能で目の前の元家族を怖がっているんだと思う。



前みたいに普通に話せばいいじゃないか、前みたいに普通に笑えばいいじゃないか。


心では分かっている。でもそれが今の俺にはできなかった。



「なぁ健二、お前はこれからどうしたいんだ?」



何も具体的なことは言わなかった。けれどその健一兄さんの言葉は少しだけ俺の心を楽にした。



“ありがとう”


心の中で浮かんだ一言はそれだった。



そうだもう決心したんだから、出来ることをやればいいだけなのだから。



「あ、あのさ・・・俺って養子だったりするの?」



小さな声だったがきっと聞こえているはず。それは両親の反応を見てそう思った。



父と母は顔を見合わせ、それから頷いた。



「健二あのね・・・ずっと言おうか迷ってたんだけど、もう知ってるみたいだから改めて言っておくね」



あぁやっと直接言われるんだな。


覚悟したはずなのに怖かった。緊張もした。不安だった。そして・・・。



「健二は8年前に家に来たんだよ」


「8年前!?」


「うん、8年前に私の知り合いだった人が亡くなってね、それでその時8歳だった健二を私が引き取ったの」


「で、でも8歳の頃の記憶なんて・・・」


「それは・・・」



母は言いづらそうな顔で父を見た。


そして次に父が口を開いた。



「解離性障害・・・。健二の本当の両親が亡くなった時、そのショックのせいなのか、お前の記憶は無くなっていたんだ。だからお前の8歳以前の記憶は多分・・・」


「そ、そんなこと・・・」



信じられなかった。けど確かに昔のことは覚えていない。ただ単にインキャで誰とも話してこなかったからだとずっと思っていた。けど解離性障害って・・・。



健二の頭が混乱する。養子ってことだけで精一杯だったのに、解離性障害ってな・・・笑えてくる。


健二は苦笑いをこぼした。



それを聖奈が心配そうに見ている。



「大丈夫か健二?」



健一兄さんの声が聞こえる。だがそれは意味を持った言葉としてではなく、ただの雑音にしか聞こえなかった。頭がパニックを起こしている。自分でもそれがわかった。



そして浮かび上がったのは2人の女の子。


あぁまたこの記憶だ。前にも見た。

前にも思った。この子を知っていると。思い出せる・・・もう少しで。



そこで俺の意識は完全に消えた。


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