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自称インキャぼっちは悩みの数だけ彼女がいるようです  作者: 史本 会
自称インキャは後輩女優に翻弄されているようです
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現実逃避

あけましておめでとうございます!


今年も宜しくお願いします。


朝、起きたはずなのにいつも出ている日が今日はまだ出ていない。

俺はあのまま寝てしまっていたらしい。

寝返りを打ちながら時計を確認した。


ー5時30分ー



「まだこんな時間か」



ため息をつきながら小さな声で呟く。


正直な話、昨日の話はまだ信じられないし夢であってくれと心では願っている。


でもあれが本当の話だったら、これからどう家族に顔を見せればいいのか見当もつかない。


はぁ。

そして再びため息をついた。


まぁ考えてもしょうがない。今日はみんなが起きる前に行くとするか。


そうして重たい体をゆっくりと起こしリビングに向かった。



リビングに着くともの寂しげな静かさがその空間を支配していた。



軽い朝食を済ませ、6時前に家を出た。


外はようやく日が出てきたもののまだ薄暗く、梅雨前の少し冷たい風が体に刺さる。



寒さを和らげるために少しスピードを上げ歩き出す。いや早く家から遠ざかりたかったからかもしれない。現実を受け入れられず俺の体は既に現実逃避をしていたのだろう。


いつもなら百合子と通る道を今日は1人で歩く。

ちょっとだけ寂しいように思えたせいかいつもより肌寒く感じた。




途中、公園に寄った俺は一人寂しくブランコに腰を下ろした。


人気のない道。誰もいない公園。

人の声は全くせず冷たい風と風で揺れるブランコの音が聞こえるだけ。



「寒いな・・・」



早く出たことを少し後悔し、その一言が口からこぼれた。




「どうかしたんですか?」



唐突に後ろから声をかけられ俺の体はビクッと反応した。


その声は聞いたことがる。そして後ろを振り返って確信した。



「長谷川さん・・・」



学校の制服にマフラーをつけ、マスクと手袋もつけている。完全に冬の格好だ。



「横田先輩こんな朝早くからこんなところで何をしてるんですか?」



全く同じことをそっくりそのまま返したいと思ったが、それを口をする気力も今の俺にはなかった。



「まぁ色々あってな・・・」



俺の精神状態を理解したかのように長谷川さんは何も言わずに隣のブランコに腰を下ろした。


そして再び風の音だけがその空間を包んだ。

その静寂を断とうと口を開いた。



「俺さ・・・」



だがその後の言葉が喉の奥で詰まって出てこない。いやただ単に言うべきではないと思ったのかもしれない。これは俺の問題だと・・・。


すると黙っていた長谷川さんが口を開いた。



「全く、なんでこうもっとワァーっとなれないですかね」


「ワァーっと?」



長谷川さんの言うワァーっとの正体はなんとなく分かる。だが俺にとってはやはり自分の問題なのだ。だからあえて聞き返した。そうすればそれ以上は何も言ってはこないだろうと思って。


しかし俺の期待とは反対に長谷川さんは続ける。



「全部1人で抱え込みすぎなんですよ。佐倉先輩の件も園田さんの件もそうでした。何かをするのに1人は辛いです。だからたまには誰かに頼ってもいいと思いますよ」



ずっと1人だった俺に初めて話しかけてくれた佐倉。初めての依頼で俺の彼女になった百合子。この短い間に色々あった。そんな日々が楽しくて嬉しかった。どうして楽しかったのか嬉しかったのか、そんなことは決まってる。みんなと一緒にいれたから。一緒に過ごせたから。


長谷川さんの言葉はいま1人で抱え込んでいた胸の重りを取り払っていった。


たった一言、二言。でもそんな言葉が今の俺には必要だった。


“誰かに頼ってもいい”その言葉が胸の奥深くまで響き渡った。



「ありがと・・・」



そう言って立ち上がる。


公園の時計は既に7時を指していた。



立ち上がった俺を見て、隣に座っていた長谷川さんも立ち上がる。


「私も行こ・・・」



独り言のようだったので特に返事はしなかった。



そうして俺と長谷川さんは学校に向かって歩き始める。



「そういえば長谷川さんも朝早かったんだね」


「・・・」



ちゃんと尋ねたつもりだが長谷川さんには独り言にでも聞こえたのか返事がなかった。


俺は振り返って顔を見た。そして確信した。長谷川さんが返事をしなかった理由。それはいたって簡単な話で、長谷川さんの姿はなかったのだ。


どこに行った!?今のは亡霊!?それとも俺の妄想!?そんなわけ・・・。



長谷川さんに思うことはあったが一度大きく息を吸ってから吐いた。そしてもう一度学校に向かって歩き出す。




しばらくして聞きなれた声が聞こえた。



「せんぱーい!」



あぁいつもの声だ。毎日聞いているせいか、謎の新鮮感が俺の心を支配した。



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