突然の真実
あのノートは一体なんだったのだろうか。
慌てて逃げた百合子の反応から見ても、ただのスケジュール帳ではないことは明確だ。
『先輩とのスケジュール帳』
めっちゃ気になる!
ちょっと中身を見てみたい。そんなろくなことを考えながら下校していた。
「ただいまー」
俺の帰りとともに小さな足音が近づいてくる。
「お帰り健二にい」
そう出迎えてくれたのは他でもなく聖奈だ。
今日はエプロンの姿で出迎えてくれた。どの姿も魅力的だがエプロン姿は俺的ランキングでは常に上位を張っている。
ちなみに他にも聖奈のパジャマ姿や制服姿、ジャージ姿や浴衣姿などもランクインしている。なんかシスコンとか言われてひかれそうだが、俺は別にシスコンでも構わない。だってこんなにも可愛い妹がいるのだから。
「健二にい!聞いてますか!?」
「あぁ悪い、ちょっとぼんやりしてた」
「もうしっかりしてください!」
「わるいわるい。でなんだっけ?」
聖奈は一つため息をついてから続けた。
「今日、お父さんとお母さんが帰ってきます!それだけです!」
「え、まじ!?」
「はい、まじです」
・・・両親が帰ってくる。
聖奈の口から思わぬことを聞かされ戸惑っていた。
普通の家で両親が帰ってくるのは当たり前かもしれない。だが横田家にとってそれは特例だった。
俺が物心ついた頃から両親は仕事なのか旅行なのか分からないが、定期的に海外に行きしばらくは帰ってこない。
そんな感じで今日まで来た。事実両親と会った回数は指で数えられるほどしかない。もはや親というよりも遠い親戚といったほうがいいかもしれない。
ということで両親が帰って来ることは俺にとって、横田家にとって日常外なのである。
「それで何時頃帰って来るんだ?」
「20時頃になるそうですよ」
「ってことはあと2時間くらいか」
それまでに色々と準備をしなくてならない。家の片付けだとか心の準備だとか、まぁ色々。
とは言っても2時間もかかることでもないので、一旦自分の部屋に荷物を置きに行った。
とりあえずちょっとゆっくりするか。
この考えが甘かった。百合子とのやりとりの疲れもあってか、ベットで寝てしまっていたのだ。
起きた時にはすでに時計は20時30分を指していた。
「やばっ!」
慌てて部屋から飛び出しリビングに向う。すると両親はすでに帰ってきていたようで聖奈と健一兄さんと何かを話していた。
あまり元気のない声がリビングで響いている。
俺は盗み聞きをするように壁に耳を当てた。
「どうしようか。あいつに本当のことを話した方がいいのか・・・」
この低くて渋い声は父親の声だ。何を困っているのだろうか、それにあいつとは?本当のこととは?全てが疑問だった。
「そろそろいいと思うけど。でもいきなりっていうのもね・・・」
続けて喋り出したのは母親。最初から聞いていなかったせいでなんの話をしているのか分からない。
「高校生とはいってもあいつはもう立派な大人だ。今話しても問題は無いと思うが」
これは健一兄さんの声だ。一体何を話し合っているんだ?全く分からない。
「でも健二にいはもう大事なお兄ちゃんで家族なんです。今更事実を告げても・・・」
えっ!!?おれのことだったのか!?
てか今「大事なお兄ちゃん」って言わなかった!?超嬉しいんだけど。
「だけど、いっておいた方がいいこともあるでしょう」
「けど義理の息子だなんて今更どういえばいいんだよ」
その後少しだけ夫婦喧嘩が始まった。
だがその前に俺の意識は「義理の息子」の方に傾いていた。
はっ!?えっ!!?どういうこと!?
俺って実の息子じゃないの!?
完全に頭がついていけていない。一度深呼吸をしてからもう一度整理しようとする。
義理なのか!?でもまさか・・・。
いやよく考えてみれば、家族の写真がこの家にはない。それに俺だけ顔とかそれ以外のステータスも低い。もしかして本当に義理なのか!?
と驚いている俺の頭を一つの場面がよぎる。
「お兄ちゃん!」
「健二くん!」
それは2人の女子のシルエット。片方は台詞からして本物の妹なのだろう。もう1人は・・・。その子を俺は知っている。どこか懐かしいようで身近に感じていた人。こいつは・・・。
そこで俺の記憶の一場面は閉じた。一体どうなってんだ。今のは一体!?
もう少しで思い出せそうだったが俺の記憶はその2人の女子が誰なのか判明するには至らなかった。
「け、健二起きてたの・・・」
目の前にいたのは母親。驚きの顔と気まづそうな顔が混ざっている。
「か、母さん。久しぶり」
「今のことなんだけど・・・」
今のこと、とは多分俺が聞いてしまったあの事だ。だが俺は嘘をつく。
「え、なんのこと?」
苦笑いをしながら一歩ずつ後ろに下がっていく。そして階段を全力で登った。
「健二!待って!」
母さんの声には反応せず俺は自分の部屋に入った。
そして布団に潜る。
ドアの外では母さんの声が聞こえる。なんて言っているかはよく分からない。多分母さんは俺の心配をしてくれている。
だけど俺の心はそれを聞く余裕すらなかった。もう何がなんだがさっぱりだ。
なんなんだよ本当に!俺って誰なんだよ!さっきの2人は!?義理の息子!?
俺は本物の家族じゃないのか!?
いろんな感情が俺を支配した。目から既に少量の涙が出ていた。
理由は分からない。ただの疲れかもしれない。怖かったのかもしれない。自分が義理の家族だと知って寂しくなったのかもしれない。
ただ俺の目からはその感情の全てが流れ落ちていった。
「もう、わけわかんないよ」
そう呟いて目を閉じた。




