睡眠と弁当
突然だが、朝起きるのは憂鬱だと思う人はこの地球上に何人いるだろうか。もしかしたら何万、何億人が憂鬱だと感じているかもしれない。
そして今、俺はその1人としてこの世界の人々に告げたい!なぜ義務教育を終えてからも勉強をしなくてはいけないのか、なぜ社会に出て使わないことを勉強しなくてはいけないのか。そしてなぜ俺が家事をやらなくてはいけないのか!
最後のは完全に俺のわがままなのだが、俺はこれを世界に訴えたい。
なぜこんなこと思っているか、その理由は色々あるが、まずはその経緯から話そう。昨日下校した俺はまずいろりのお見舞いに行った。そしてその後、家に帰った俺を待っていたのは霞姉さん。
しかも昨日の霞姉さんはいつもと違っていた。外れていたネジが戻ったように真面目で、私のようにならないようにと勉強を勧めてくるのだ。
初めは仕方ないかと思っていたのだが、23時を過ぎたあたりから、なぜこんなことをやっているのだろうかと、不思議に思い始めた。英語なら将来的に役に立ちそうなのでいいのだが、勉強させてきたのは理科だった。
しかも俺は文系のクラスなので学校でも触れることはない。なのになぜ理科!?とか思いながらもやる俺は尊敬に値すると我ながら思った。
そして夜中の1時、ようやく解放されたと思った俺を霞姉さんは家事という牢獄に閉じ込めた。
「健二、皿お願いね!私もう眠いから寝るわ」
そう言って勝手に自分の部屋に逃げていった。
あいつまじムカつく!絶対就職して、あいつを見返してやる!俺の中で火がついた。そしてそのあと、もう一度勉強に励んだ。火がついてしまったのだからしょうがない。
朝の4時 俺は我に返り、自分がなぜ勉強をしているのか、疑問に思った。そしてこれは自分のためだと言い聞かせ、瞑想を始める。
そして現在、たった2時間の睡眠でベッドの上で目を覚ます。当然眠いし、だるい。そして勉強に励んだ俺を憎んだ。
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「おはようございます先輩!」
家を出ると百合子が手を振っている。
だが極限に眠く機嫌が悪い俺は、それを無視して学校へ歩き出す。
「ちょっと先輩待ってください!」
「あー、誰かと思えばお前か・・・」
「お前、って私これでも有名人なんですよ!先輩よりもてるんですよ!」
有名人なのはわかるが、なぜモテるかどうかを主張したのかよくわからない。
「それで、何か用か?」
「そりゃもう、いっぱい用はありますけど、まず今から一緒に登校してください!」
「はぁ、もうすでに俺についてきてる時点で一緒なのは確定してる気がするんだが・・・」
「先輩、まさかのため息ですか、それに一緒に登校できるのも今しかないじゃないですか!」
すごく嬉しそうに話を続ける百合子、対してその話が全く入ってこない俺。
その後の会話は全く噛み合わず、途中から百合子まで黙り込んだ。
「じゃあな、俺教室こっちだから」
「はい・・・」
方今転換をして教室に向かおうと一歩踏み出した時、百合子が何かを喋った・・・気がした。
手を振ってその場を後にする。
そして無事に教室に着き、席に座ってからの記憶はない。
多分爆睡だったと思う。
そして昼休み、俺は誰かに起こされる。顔を上げると淵野先輩が呆れた顔で見下ろしていた。
「おはようございます先輩・・・」
「おはようって後輩くん、もう昼休みなのだけれど」
「えっ、そんなに寝てたんですか・・・」
「後輩くん、あなたに用がある人がいるみたいよ!」
そう言って廊下の方を指差す。
そこにいたのはちょっと怒った顔をした百合子だった。
「あぁ可愛い・・・」
頭が寝ているせいか、ぽろっと口からでてしまった。
「後輩くん、やはりあなた変態のようね、まったく」
淵野先輩は呆れた顔からため息をこぼし、自分の席に戻っていく。
俺は覚めていない目をこすり、ゆっくりと立ち上がった。
そして廊下に出た・・・といきなり足を踏まれる。
「あの百合子さん痛いんですけど」
「先輩、私朝なんて言ったか覚えてます!?」
「え?あーえっと、おはようございます!?」
「違います!もう先輩ふざけないでください!」
「ごめん、多分聞いてなかった」
すごい、眠いと思考が完全に停止していて、素直に謝れる。
「あのですね先輩、これです」
そう言って俺に見せたのは小さな布袋。その中から取り出したのは弁当箱だった。
「えっ!?これ俺用?」
「そ、そうですよ。恥ずかしいから屋上で渡そうと思っていたのに・・・」
「恥ずかしいって現にこうやって・・・」
そう言いながら百合子の顔を見る。俺から目をそらし顔を赤くさせ、本当に恥ずかしそうだった!ごめん!疑ってしまいました!
「あ、ありがと・・・」
「い、いえ・・・ちゃんと食べてくださいね」
「う、うん残さず食べます・・・」
なんだかすごく気まずい雰囲気になってしまったが、百合子が戻った後のクラス内の男子の雰囲気の方が悪かった。また嫉妬ですかね・・・。
「では、いただきますか」
そうして弁当を開ける・・・これは絶対食べれない!っていうような王道パターンではなく、ちゃんとした美味しそうな中身だった。
そして一口食べて、弁当を閉めた。
あっ、これ王道のパターンだ・・・。




