朝食当番
朝俺が目を覚ますと・・・いや実際寝ていないので目を覚ますという言い方はおかしい。流石にこの状況で寝れたら俺は男ではない。目をつぶったのはいいもののまったく寝ることができなかった。寝相の悪い聖奈は俺を抱き枕にし、対していろりは俺を蹴飛ばしたり、叩いたり・・・多分こいつら結託して、寝たふりをしつつ俺をいじめてやがった。間違いない!
そういえば朝早くにいろりはどっかにいったな・・・。眠かったのではっきりとした記憶ではないが、事実今、隣にいないので正しい記憶だと判断する。
俺は聖奈の手をほどき、そっと起き上がった。
今日は土曜だし、寝かせておいてやるか。
「健二にい、ダメです・・・」
聖奈の寝言だ。少しびっくりしたが夢の中に俺が出ているなんて、嬉しい!一体どんな夢を見ているのだろう。すごく気になる!
それから聖奈が起きないようそっとドアを閉め階段を降り、リビングに向かった。
「おはよう、ヨコッチ!」
「おはよ」
リビングにいくと、いろりがソファーで横になっていた。
こいつはこの家を自分の家だと思っているらしい。
「なぁいろり、いつ帰るんだ?」
「えーひどい!まだまだ帰らないよー」
いや、なにがひどいんですか!それにまだまだって、いつまでいる気ですか!?
「それでいつ帰るんですか?」
「もう、ヨコッチのバカ」
なんか急に悪口言われたんですけど、追い出してもいいかなこの子。
「あっ、そうだ!ヨコッチ、朝ごはん作ってあげよっか?」
「作って・あげる・なのね・・・」
「そう・あげる・だよ!」
「そうですか、では作って下さい」
「はい!頼まれました!」
なんで泊まりに来てるこいつにお願いをしなきゃならんのじゃ・・・もう突っ込むのもめんどくさい。
そうして、いろりの朝食作りが始まった。
「まずは、卵を3つ割りまーす、それから塩と胡椒を混ぜて、かき混ぜまーす・・・」
楽しそうに作っていたが眠くて機嫌が悪い俺には雑音にしか聞こえない。
「いろり!」
「なに?」
「ちょっと静かに作ってくれるか!?」
「は、はい・・・」
これでよし!ようやくソファーで寝ることができる。夜寝れなかった分、いま、この時間くらいは寝ておきたい。
包丁の音が聞こえる。何かを混ぜているような音も・・・。
「ヨコッチ、起きてよ!」
「ん!!ごめん・・・寝てたみたいだ」
「もう、しっかりしてよね!」
あれからどれくらい経っただろうか、いろりの声で目を覚ました。
一応誤ったが、初めから寝るつもりで横になったので反省はしていない。
「・・・で朝食はできたのか?」
「・・・」
下を向き、反応をしないいろりを見て、まさか!とは思ったが机の上の皿を見て、ため息をついた。
「お前これ、なに作ろうとしたの?」
「えっと・・・ベーコンエッグ?かな」
「なんで疑問系だよ、てかどう見てもベーコンエッグではないよねこれ!」
「そんな褒めなくても・・・」
「褒めとらん!」
いろりは少し反省した様子だったので、これ以上は責めないことにしよう。
「で、でも見た目はあれでも、もしかしたら!」
「それはない!」
いろりの話の途中で、俺はその話を否定した。いろりはまったく反省していなかった。やはりそういった演技は上手いようだ。
「ひ、ひど・・・」
「はぁ、まったく・・・」
ちなみにその皿の上にあったのは目玉焼きを真っ黒に焦がしたような物体に細かく切られたベーコンがのっているだけという、謎の料理だった。
逆に卵をかき混ぜたのにこの形にできるのはすごいと関心した。それにベーコンをここまで細かく切ることができるのもすごい。まるで粉チーズ・・・いや粉ベーコンだ。
「ご、ごめん・・・これ片付けるね」
ひどく落ち込んでいるのか下を向き、肩の力が抜けていた。
これも演技なのかもしれない。だが心優しい俺は、そんないろりを見て放っておくことはできない。
「置いておいてくれ、あとで食うから」
「えっ!食べるのこれ」
「これ、ってお前が作ったんだろ」
俺の言葉が嬉しかったのか、皿をテーブルの上に戻し、笑顔を向けた。
その笑顔はとても素敵なものだった。
不意をつかれ、一瞬ときめきそうになったが、すぐに心を落ち着かせ、深呼吸してから立ち上がった。
ゆっくりとテーブルに向かう。
先ほどまで気がつかなかったが、匂いもなかなかのきついものだった。
なにを混ぜたらこんな匂いがするんだか・・・。
そして椅子につき、一口目を食べようとした瞬間、いろりは皿を取り上げた。
「はい、おしまい!」
「は?」
こいつはなにを言っているのだろうか、おしまい、ってなに!?
「いやーまさかこんな料理でも、食べようとするなんて、やっぱヨコッチってバカだよね」
「な!・・・俺はお前が落ち込んでたから、食べようとしてやってたんだぞ!」
「分かってるって、ちょっと試しただけだから」
「試した?」
「そう、ヨコッチがどれくらい優男なのか試したの!」
「は、はぁ」
ってことは俺はこいつに乗せられてたってか!くそ、悔しい!なんかモヤモヤする!
「でも、やっぱりヨコッチ、本当に・・・」
いろりが何かを言いかけた時、ドアが開き聖奈が入ってきた。
「おはようございます、健二にい・・・あと佐倉さん」
「おはよう」
「おはよう聖奈ちゃん」
聖奈の寝起きを見るのはいつぶりだろうか、写真に収めたいくらい可愛い!
「ヨコッチ、なにケータイ出してんの?」
「えっ!?」
また、こいつに心を読まれたのか!って俺、ケータイ手に持って・・・ないよな!何度も自分の手を見て確認した。
「嘘、冗談!」
「お前な!」
冗談にも言っていい冗談と言ってはいけない冗談がある!いろりのはダメなやつだからな!絶対に!
「健二にい、この匂いはなんですか?」
流石にこの匂いはリビングにいれば気づく。俺は皿を聖奈に見せた。
「な、なんですかこれ・・・」
聖奈は唖然とした様子で、固まった。
「これな、いろりが作ったんだよ、ひどいよな!?」
「え、い、いやーオイシソウダナー」
「いやいや、別に遠慮とか配慮とかいらんから、それにすげー棒読みになってるから」
そんなことを言っていると、いろりは怒ったのか、皿をかたづけ新たな料理を作り始めた。
「あ、あの、いろりさん・・・?」
いろりは完全無視で、黙々と作っている。
「ちょっと佐倉さん!朝食当番は私です!」
そう言って、黙々と作業するいろりに聖奈は割り込んだ。
「ちょ、ちょっと聖奈ちゃん」
「ダメです、それは私の仕事です!」
そう言い合っていたが、結局二人で作ることになり、ちゃんとしたベーコンエッグが出来上がったのだった。




