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自称インキャぼっちは悩みの数だけ彼女がいるようです  作者: 史本 会
自称インキャはクラスメイトの副部長を放っておけないようです
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目の前の命

「あー疲れた」



帰り道、俺は一人でそう呟いていた。

その原因は担任の清水である。授業が終わり、放課後、本当なら部活に行くはずだったのだが、遅刻のことについて清水に呼び出された。


呼び出された場所は本日2度目の生徒指導室。俺が部屋に入ると既に清水先生は手前の椅子に座っていた。


流石である。あえて手前に座ることにより、俺を帰らせないために奥の椅子に誘導しているのだ。


そして長い尋問が始まる。朝、鬼島に指導されたんだからいいだろ!だが清水先生は容赦がなかった。

それからはあまり覚えていない。ただひたすら尋問された。そのせいで俺の心はズタボロである。


早く帰って聖奈に癒されたいとか思いながら結局3時間ほど尋問され、今に至る。




「ただいまー」



疲れきった俺の声に反応し誰かがこちらに向かってくる。



「お帰りなさい、健二にい!」




「あーこれだー・・・」




聖奈の顔を見て、声を聞いて、それだけで癒された。頑張って帰ってきて良かったと思える。




「健二にい、いやらしい顔しないでください!」




「えっ、嘘」



まさか顔にでてたのか!?最近、心で思ったことがよく顔にでてしまう。なんとかしないとな・・・。




「嘘です」




「えっ、嘘なの?」




「はい、嘘です。こう言ったら健二にいは焦るかなと思い・・・」




俺はホッと一つため息をつく。

やめてくれ!本当に焦るから・・・ただでさえ今日は特別疲れてるんだ。聖奈にまで心を遊ばれたら俺の心がもたない。



「健二にい」




「ん、どした?」




「健二にいの部屋に客が来てますよ」




「それも嘘?」




「いえ、本当です。確か前にも家に来たことがあったような・・・佐倉さん?という方です」



「なに!」




どうしていろりを部屋に入れたんだ!と怒りたい気持ちもあるが、とりあえずトイレに行こう!




トイレは俺の避難場所だ。何かあったらトイレにこもる。これも俺の長い生活の中で習得したスキルである。



なにを考えるか、そこから考える。

今、部屋にはいろりがいる・・・いろりがいる、いろりが・・・って何にも考えられん!



仕方なくトイレを出て、部屋の、前まで来た。

ドアノブに手をかけ心の準備をする。よし、行くぞ!と意気込んでそっとドアを開けた。



するといろりは俺のベットの下に潜るように上半身をいれ、下半身をこちらに突き出している。




「白・・・か」



俺は真っ先に目に入ったものを小さな声で呟いた。



「痛ーー!」



俺の声に気づいたいろりは頭をベットにぶつけた。そしてゆっくりベットの下から頭を出した。




「見たでしょ!」



スカートを両手で抑え、顔を赤らめている。



「み、みてない」



とっさに嘘をついた俺に正直に言え!と言わんばかりの目で睨みつけてくる。



「み、見ました・・・」




「忘れなさい・・・」




「え?」




「忘れろ!」




そう言って俺に平手打ちを食らわせた。

疲れもあったのだろう、俺は床に倒れた。






「ヨコッチ?・・・ヨコッチってば!」



目を開けると、目の前によく知っている人物の顔がある。いろりの顔だ。



「よかった、死んじゃったかと思った」




「そんな簡単に死んでたまるか」




「ご、ごめん」




「あぁ、えっと・・・とりあえず、そこをどいてくれないか?このままじゃ俺立てないんだが・・・」




そう、この状況は何日か前に俺が聖奈にやってしまった四つん這い身封じ技である。名前は勝手につけたが、今、あの時と同じような形で俺は身を封じられている。あの時の聖奈の気持ちが実体験で確認できた。




「ご、ごめん!」




いろりはそう言って、慌てて立ち上がりその場をどいた。


俺はいろりがどいた後ゆっくり立ち上がり、いろりの顔を見る。

やはり疲れているのだろうか、今ならいろりの顔をちゃんと見ることができる。





「なぁいろり、お前本当に死ぬのか?」




元気ないろりを見ているとあの言葉が嘘なのではないかと、そう思う・・・そう思いたい。




「死なないよ、私・・・もっと生きてたいから、死なない」




「そっか・・・」




つくった笑顔を見ていると俺にはなにも言う権利がない、そんな気がした。




「ねぇ、ヨコッチ」




「なんだ?」




「屋上での話、覚えてる?」




「もちろん覚えてる・・・」





「そっか・・・私さ、あの事故にあって、脳におっきなダメージ受けて、次ダメージ受けたら死ぬかもしれなくて、今もいつ倒れてもおかしくない状態だって、医者に言われて・・・」




いろりは手で顔を覆い隠すようにし、泣き出した。

それでもいろりは話を続ける。



「私さ、最近の学校楽しかったから・・・実はさ小学、中学で全然友達いなくて、でも高校では頑張るぞ!って思って、そしたらなんか知らないうちに友達増えて、高2になったら好きな人までできて・・・私、楽しかった。毎日毎日が、だから、だから私!死にたくない、絶対死にたくない!」




この重い言葉を俺はどう受けて止めていいのか分からない。けど確かに思うことがある。それは・・・




「あぁ、そうだな。死にたくないよな、だから生きよう、おれも一緒に生きるから・・・」




なにを言えば正しいのか分からない。けど俺はいろりには心の底からいなくなってほしくない、そう思う。



「ありがと、ヨコッチ・・・」




「・・・うん」




いろりは俺の胸に頭を当て、俺がいろりを支えるような形になった。



このまま抱きしめたらどうなるのだろう。抱きしめてやりたい、けどそれをしたら俺は・・・。






トントン


ドアを叩く音がした。

このタイミングでかよ!まじかめっちゃいいところじゃん!いくら聖奈でも怒るからな!




「健二、起きてる!?」




その声を聞いて、俺は立ち上がりドアを開けて激怒した。




「霞姉さん!ちょっと黙ってろ!」




そしてもう一度部屋に戻りドアを閉め、いろりの頭に手を乗せた。

佐倉いろり篇まだまだ続きます!


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