言葉
長い間おまたせしました。ここからようやくタイトル回収です。
その一章目、佐倉いろり篇スタートです
朝家を出ると、いろりが家の前で待っていた。
「おはよー、ヨコッチ!」
「おはよう」
「一緒に行こ!」
家の前で待ってたのに一緒に行かないとかあるのかよ。
「健二、いってらっしゃいー!」
玄関から出てきた霞姉さんはこちらに手を振る。
いろりは軽い会釈をしたが俺はそれを無視して、歩き始めた。
「あっ!ヨコッチその時計どうしたの!?」
「ん、あーこれね 昨日聖奈からもらったんだよ」
そう、それは昨日のことである。
ー昨日ー
学校でのことでウキウキして寝れず、自分の部屋を歩き回るという謎の行動をしていた俺は聖奈が部屋に入ってきたことに気がつかなかった。
「健二にい、何をしてるんですか?」
「何って、ちょっといいことがあってさー・・・って聖奈か!びっくりした、いきなり入ってくるなよ」
「何度もノックしましたよ、それで中に入ってみたら健二にいが変な笑みを浮かべながら、歩き回っていたんじゃないですか!」
「えっ、あぁそれは・・・そ、そんなことよりどうしたんだ?こんな時間に」
俺がそう言うと、聖奈は少し顔を赤くさせ、何か呟いた。
「聖奈?」
俺が一歩二歩、聖奈に近寄っていく・・・
「ストップ!ちょっと待ってください」
「急にどうしたんだよ?」
「そ、それは・・・これを渡そうと」
後ろに隠していた手を前に出すと小さな紙袋を持っていた。
「それは?」
「た、誕生日プレゼントです・・・ほ、欲しいですか?」
「う、うん!もちろん欲しい!」
「では、さっきまでどうして部屋を歩き回っていたのか教えてください」
「それは・・・」
「なぜですか?」
「えっと、ちょっと学校でいいことがあって・・・」
「というと?」
今日は随分と積極的に質問してくる。
「そ、それは誕生日を祝ってもらえた・・・とか」
「へーそうですか」
今まで恥ずかしそうな感じだった聖奈が急に怒った表情に変わった。
「学校で祝ってもらったんですか」
「そ、そうだけど・・・」
「ならこれはいりませんね!」
「待て!何でそうなるんだ、欲しい!俺は聖奈からプレゼントが欲しいんだ!」
ちょっと言いすぎたかなと少し反省したが、聖奈の顔を見ると今ので正しかったのだと確信した。
「そ、そうですか・・・やっぱり私のが欲しいですか 。し、仕方ないですね・・・仕方ないのでこれをあげます!」
仕方ないを2回も言わなくても・・・まぁ聖奈からプレゼントなんて素直に嬉しいからちゃんと貰うことにする。
「あけてもいいか?」
「は、はい・・・でも私が部屋を出てからにください!」
「は、はぁ・・・わかった」
すると聖奈は反転し、小走りで自分の部屋に戻っていった。
ここまでが先ほどの時計を貰った経緯である。
ー現在ー
「ねぇ、ねぇヨコッチ!聞いてる!・・・ヨコッチってば!」
「あ、あぁごめん・・・ボーッとしてた」
「まったく・・・」
いろりはそう言いながらも笑顔を見せる。
そんな笑顔を見ていると病院でのことを思い出して、少し恥ずかしくなってきた。
「あのさ、ヨコッチ」
「どうした?急にあらたまって」
「もし、もしさ私がいなくなっちゃったら悲しい?」
「え?何だよそれ」
「い、いや何でもない・・・いまの発言は忘れて」
「で、でも・・・」
その質問の意味を俺は理解することができなかった。
ただいろりが何かを隠している、それだけは理解した。
「ほら!早く行かないと遅れるよ、ヨコッチ!」
「あっ、ちょっと待てって・・・」
急に走り出したいろりを慌てて追いかけた。
「横田さん、佐倉さんおはようございます!」
「うん、おはよう鮫島さん」
教室に入るといつも通りの挨拶を交わす。
俺の後に入ってきたいろりはさっさと自分の席に向かった。
「どうかしたんですか?」
「何がだ?」
「あぁ、佐倉さんですよ、今日なんか変じゃないですか?」
「そうか?いつも通りだと思うけど」
「そうですか・・・横田さんがそう言うなら、私の思い違いですね」
いや、本当は俺も気づいている。登校中のあの発言、それに今日のいろりの態度、無理してつくった様な表情、それに・・・。
チャイムがなりドアが開くと清水先生が入ってきた。
「えーっと今日はホームルームを始める前に、1つ大事な報告がある」
この時、俺は嫌な予感がした。
朝のいろりのあの発言、それにホームルーム前の大事な報告・・・まさか!
清水先生は続けた。
「実は・・・今日から次期生徒会の立候補期間が始まる、このクラスでもしやりたい!という人がいたら後で私のところに来てくれ!以上だ、ホームルームを始めるぞ」
俺は1つため息をこぼし、その後に
「よかった・・・」
と小さな声で呟いた。
それが聞こえていたのか、鮫島さんは俺を見て不思議そうな顔をして首を傾げた。
「ねぇヨコッチ・・・」
ホームルームが終わり最初に声をかけてきたのはいろりである。
「どうした?」
するといろりは俺の耳元まで顔を近づけ、こう呟いた。
「昼休み、屋上で待ってるから・・・」
それだけ言い残し自分席に戻っていった。
今のシチュエーションは病院でのことを思い出してしまう。少し恥ずかしくなってきた。
「横田さん大丈夫ですか?」
「え!?うん、だ、大丈夫」
「そうですか・・・」
昼休み、俺はいろりに言われた通り屋上に向かう。一応だが昼食も持ってきた。
屋上に着くと一人の女子の後ろ姿があった。
その女子は振り向き、笑顔を見せた。
「か、可愛い・・・」
見返り美人というやつだろうか、一瞬だけその女子が可愛く見えた。
「ヨコッチ、やっときた・・・」
補足だがその女子はもちろんいろりのことである。俺は先ほどいろりに可愛いと言ってしまったのだ。聞こえてなかったようなので一安心。
「それで、何かようなのか?」
「う、うん・・・ヨコッチには言っておきたくてね」
「朝のことか?」
「うん、まぁね・・・ヨコッチは朝の私の質問、なんて答えるの?」
「そりゃ、悲しい・・・かな」
「そっか、ありがと」
「それでその用ってなんなんだ?」
「言わなきゃダメ?」
「言ってくれ、俺はそれを知っておきたい」
なぜかわからない・・・でも俺にはそれを知る義務があるように感じた。それに屋上にまで呼び出したんだ、言ってくれなきゃ怒る。
「わかった、じゃあ教えるね」
俺は唾を飲み込む。どんなことを言うのだろう・・・いなくなるって、どういうことなんだろうか、そんなことを考えて俺はいろりの言葉を聞いた。
「あのね、私・・・・
・・・」
そう言うと、また後ろを向き空を見上げてこう言った。
「空、綺麗だね」
まるでさっきのいろりの言葉が空に消えていくかのような、そんな感じがした。
「いろり、お前・・・」
もう一度笑顔でこちらを振り向いたいろりを見て、俺は泣きそうになって・・・そしていろりに抱きついて何か言葉を言ってあげたい・・・と思わせるほどいろりが可愛く見えて、そして胸が苦しくなった。




