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自称インキャぼっちは悩みの数だけ彼女がいるようです  作者: 史本 会
自称インキャはクラスメイトの副部長を放っておけないようです
26/48

誕生日

登校中、ふと思い出した。


そういえば今朝、霞姉さん誰かと電話してたな・・・まぁ関係ないか。





今日もいつも通り、学校へ向かう。その途中でいろりの姿を見たが、いろりは気づいていないのだろうか、話しかけてはこなかった。




学校に着き、席に着く・・・そして最近の日課を行う。




「おはようございます横田さん」





「おはよう鮫島さん」




鮫島さんとの挨拶も慣れてきて、ニヤニヤやガッツポーズはなくなった。




「朝のホームルーム始めるぞー」



そう言いながら教室に入ってきたのは清水先生である。




あれっ、そういえば今日はいろりと挨拶してないな・・・てかまだ一言も話してない気がする。



そんな考え事をしているとホームルームは既に終わっていた。



そのあと、何回かいろりに話しかけようとしたが、休み時間になるとすぐにどこかに行ってしまう。



今日はあいつ忙しいのか・・・?


結局いろりとは話すことなく授業が終わった。




「やっと終わったー!」




6時間目の終わりのチャイムは何度聞いても嬉しい。それに今日は部活がないのでさらに気分がいい。


そう今日は部活がない。今日の朝、鮫島さんにその報告を受けたのだが、とっても嬉しい!




「横田さん、今日は委員会がありますからまだ帰れませんよ」





「えっ!そうなの!?」




「はい、朝のホームルームの時に清水先生が言っていましたよ」




「まじですか・・・」




「はい、まじです」




鮫島さんはなんだか嬉しそうだ、それによく考えれば鮫島さんと二人になれるチャンスではないか!そう思うとやる気が出てくる。





「帰りのホームルーム始めるぞ!」



そう言って教室に入ってきたのは清水先生である。



「・・・今日は以上、解散! あっ文化祭実行委員はこの後あるから忘れずに行くように!いいか横田?」




「は、はい・・・」




なんで俺だけ!とか思いながらも行く意思を見せておいた。







「それじゃあ行きましょうか」




「う、うん・・・」





なんかこうして一緒に歩いていると周りの人から、付き合ってるみたいに見えたりするのかな・・・なんてそんなことを思っていると後ろから声をかけられた。




「ヨコッチ!委員会終わったら、一緒に帰ろ!」




「・・・いろりか、俺多分結構遅くなるぞ」




「大丈夫、教室で待ってるから」




「まぁ、お前がいいならいいけど・・・」





今日はいろり、なんか大変そうだったな・・・まぁ後で一緒に帰る時に聞いてみるか。


・・・てかわざわざ委員会が終わるのを待つなんてよっぽどの用事でもあるのか?俺はその用事が少し気になった。用事と決まったわけではないけど・・・。




「横田さん、ここですよ!」




気づくともう委員会が行われる教室に着いていた。考え事をしていたせいか、自分の教室を出てからここまでがすごく早く感じた。



教室に入ると既にほぼ全クラスの文化祭実行委員が集まっている。その中に一人、教卓のとこに座っているのは生徒会、副会長の桜木音々である。教卓のとこに座っているということは今日の司会進行は副会長なのだろう。俺は健一兄さんがいない事を確認し、自分の席に着いた。






「ようやく揃いましたね、それでは前にも言った通り今日は、委員長とその他、役職を決めてもらいます」




完全に忘れていたがそういえばそんな話あったな・・・。





「じゃあまず、委員長の方から決めたいんですけど、立候補したい人はいますか?」




もちろん誰も手は挙がらない。



そして俺は健一兄さんとの約束を思い出した。


確かあれは、俺がロリコン扱いされた、あの事件・・・容疑者である沖野陸を処罰する代わりに、俺が健一兄さんと約束をしたこと、それは・・・





俺はそっと手を挙げた。



鮫島さんはもちろん驚いていたが、他の人も多分驚いていただろう。どう見てもインキャでモブの俺が手を挙げたのだから・・・・。




「えっと、君は確か・・・横田先輩の弟さんよね?」




「は、はいそうですけど」




「ほかに立候補者はいますか?」




他の生徒は顔を見合わせたり、目でサインを送ったりしていたが、結局立候補する者はいなかった。




「それでは委員長は横田・・・すみません下の名前なんでしたっけ?」





「け、健二です」




「あっ!ごめんなさい・・・それでは委員長は横田健二くんにやっていただくことにしたいと思います!異論、反論がある方はいますか?」




桜木音々の司会進行は大したものだ、とても同じ年とは思えない。



結局異論、反論はなく俺が委員長をやることになった。ちなみに副委員長は流れで鮫島さんが、書記は3年生の三島先輩と金田先輩が就くことになった。






「よし、今度こそ終わったぞー!」




「お疲れ様です、横田さん・・・でも意外でした、まさか横田さんが委員長に立候補するなんて、思ってもいませんでしたよ」




「それは俺もだよ・・・」




「はい?」




「いや、なんでもない・・・さて帰るとするか!」




「なんかすごく嬉しそうですね」




「そりゃそうだよ、これから家でゴロゴロできるんだから、それに聖奈もいるしね」



「はぁ、そうですか・・・あんまりゴロゴロしていても体に良くないですから、ちゃんと勉強もしてくださいね」




ん?そこは運動じゃないのか!?、と思ったが鮫島さんが相手なのでスルーすることにした。




「それじゃ私は先に帰りますから・・・横田さん、また明日」




「うん、また明日!」





鮫島さんは手を振りながら急ぎ足で教室を出ていった。



何か用事でもあるのかな?まぁいいか、俺も帰るかな・・・そういえば、いろりが教室で待ってるとか言ってたっけ。




俺はひとまず自分の教室に戻った・・・がいろりの姿はない、代わりにいたのは淵野先輩だった。それに何故だかカーテンが閉まっていて、妙な視線を感じる。



「あら後輩くん、やっと来たのね」






「えっと、いろりを見てないですか?」




「佐倉さんなら、もう帰ったわよ」




「えっ!?俺、いろりに一緒に帰ろうって言われて教室に来たんだけど・・・」




「あぁ、それは口実よ!後輩くんをここに連れてくるための」




「どういうことです?」




「こういうことよ!」




次の瞬間、電気が消えた。ドアから入ってくる光がなんとか教室の中を照らしている。



・・・と、その時クラッカーのようなものの音が聞こえた。







「誕生日おめでとー!」




そう言って掃除用具箱から出てきたのはいろりである。。


他にも、教卓の裏からは百合子と長谷川さん。それにカーテンの裏からは峯崎と鮫島さんが、それぞれクラッカーを持って出てきた。




「え、えっと・・・」




「サプラーイズ!・・・ヨコッチ今日誕生日だったんでしょ!?」




「そ、そうだけど、どうしてそれを?」




「前以て言ってくれればもっと準備できたのに、お姉さん?からたまたま聞いたんだよ・・・てかヨコッチお姉さんいたんだね」




「あ、うん まぁね」




そっか朝のあの電話はいろりからだったのか・・・もしかしていろりが休み時間忙しそうにしてたのもこれのせい・・・?




あれ、なんだろうこの気持ち・・・。




「ちょっと待っててヨコッチ」



そう言って教室を出て走り出し、すぐに戻ってきたいろりは手に何かを持っていた。





「ほらヨコッチ!これ食べてみ!みんなで作ったケーキ!」




「え、その・・・」




「いいから、早く食べてよ!」







「そ、それじゃあ・・・」




八等分されたケーキの1つを、隣に置いてあった皿に移し一口、口に入れた。




「どう!?」


「どうですか横田先輩?」


「どうかしら後輩くん?」


「どう横田くん!?」


「どうですか横田さん?」


「どうですか先輩?」




まるで圧迫面接のようだ。みんながこうして俺のために頑張ってくれたんだ・・・笑顔で美味しいって言おう!




「美味しいよ」







「よかった、美味かったか・・・でヨコッチなんで泣いてんのよ!」



いろりがそう言うまで気づかなかった。



指を目に手をやると、涙が出ていた。一滴、二滴・・・もっとたくさん泣いていた。



「あれ、なんでだろう・・・嬉しいはずなんだけどな」



「はい、先輩!その気持ちはすごく伝わってきますよ!」




あーそうか俺は今心から嬉しいんだ・・・それにちょっぴり感動もしてる。今まで聖奈以外から誕生日を祝われたこともなかった。他の家族からも、他の人からも・・・まぁ友達がいなかったのだから当たり前なのかもしれないけど。



みんな俺を見て微笑んでいた。こんな幸せな瞬間があったなんて、本当にみんなありがとう!



「ヨコッチ流石に泣きすぎ!」




「・・・ありがと」




「え?」




「みんな本当にありがとう!」




「うん」


「はい!」


「ええ」




みんなが返事をすると、いろりが食べたそうにケーキを見ている。



「みんなも遠慮せずに食べてくれ」




「本当!?それじゃ、私たちも食べましょうか!」



「はい!」





そしてこの後は、みんなでひたすら笑った。



そんな中、俺だけは涙が止まらず次第にみんなからバカにされ始め、次の日の笑いのネタになりそうだった。



でもこの日のことは絶対忘れないと思う、いや絶対忘れない!俺は今日始めて、1人じゃない、ぼっちじゃないと思えたのだから。

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