偽彼氏
部室に戻ると既に他の部員と依頼人である園田百合子は席についていた。
「すみません、遅くなりました」
「あら後輩くん、随分と長いお花摘みだったのね」
「ヨコッチ早く座って!」
「は、はい」
そっと席に着く・・・皆なぜか俺の顔を見ている。
「ど、どうかしたか?顔になんかついてるか?」
「.・・・」
「なんとか言ってくれよ!・・・怖いだろ!」
いろりは無言である方向を指さした。そこにはこの部活の規則、ルール等が書かれていた。
恋研部規則
その1 遅刻、欠席等がある場合は、部長または副部長に報告すること。
その2 話し合いでは必ず全員1つは案を出すこと。
その3 力仕事は男子がすること。
その4 恋人等ができた、または告白やラブレターをもらった等があれば必ず報告すること。
その5 以上の4つを破ったもの、それが発覚したものは1週間、床に座ること。
これって、なんだこれー!
「おい、いろり!これはなんだ!こんなの知らんぞ、いつのまにこんなのできたんだよ!」
「さっきよ・・・ヨコッチがいつまでも来ないから、勝手に作っておいたの」
「そんな理不尽な」
俺は周りを見渡し、鮫島さんのところで見渡すのをやめ、助けを求めた。
「えっと、ごめんなさい横田くん」
そうなのか!鮫島さんまで、淵野先輩といろりに感染されたのか!俺は今後どうすれば.・・・。
「じゃあ、早速始めるわよ!」
俺のことを気にせず、いろりは会議を始めた。
「まず、園田さんの意見が聞きたいわ...何かある?」
今のところ、司会進行はいろりのようだ。隣では峯崎が書記のようなことをしていた。ちなみに部長である淵野先輩は目をつぶって、瞑想、それとも寝てるのか?まぁ、目をつぶっていた。そんなのはどうでもいい、早く俺をイスに座らせてくれー!そう、今俺は規則通り床に座っている。ていうか俺の椅子がない!
いろりの質問に園田さんは答えた。
「えっとその、私は・・・告白がなくなればなんでもいいです」
「なんじゃそりゃ!・・・まぁいいか、ということで具体案をなにか思いついた人いる?」
一度全員の顔を見て、挙手がないことを確認する、それから・・・
「じゃあとりあえずヨコッチ、なにかいい案だして!」
なんだその、とりあえずヨコッチって!...てかお前、俺に頼りすぎだろ!まぁ頼られるのは嬉しんだけど・・・。
「ちょっと考えさせてくれ」
「はぁ使えな」
「おい、いろり!今使えな、とか言ったか!」
「言ったけど?」
「ならお前が何か案を出せ!」
「あら後輩くん、それは違うわ!佐倉さんはあなたに期待しているのよ。それだけ後輩くんのことを信頼してるってこと」
こういう時だけ、いいことを言いやがる。でもそう言われると悪い気もしないし、抵抗もできない。
「それでなんか思いついた?」
「このあいだの意見はダメか?」
「・・・ヨコッチ、ふざけてるの!?絶対ダメに決まってるじゃない!」
「この間の意見とはなんですか?」
いろりの隣にいた峯崎は口を挟んだ。いろりは峯崎を睨みつける。峯崎が恐怖しているのが伝わってくる。
「それはね」
俺が口を開こうとしたところ、いろりの標的は峯崎から俺へと変わった。
「いえ、なんでもないです」
「あのすみません」
「どうかしたの?奈帆ちゃん」
「いえその、なんというか・・・この間の先輩の意見もみんなに共有しておいた方がいいと思います。別に悪い案でもなかったですし」
いろりは少し考え始めた。峯崎や俺の時とは明らかに違う対応・・・これは差別だ、許せん!
「その後輩くんの意見とやら、私も気にあるわね」
「可憐さんまで・・・
分かった。奈帆ちゃん...ヨコッチの意見としてではなく、奈帆ちゃんの意見として今提案して!」
「は、はい!わかりました」
それがどういうことなのか、いろりにとってなにが違うのか俺には理解できなかった。
「私の意見として発言させていただきます。そ、園田百合子さんに、か、彼氏ができたことにしてしまえばいいのではないか・・・と提案します」
思い切って発言した長谷川さんに対して、淵野先輩は感心した様子をみせた。
「私はその意見はなかなかいいものだと思うのだけど、なぜ佐倉さんはダメなのかしら?」
「そ、それは・・・そ、そうよ!芸能活動をしている園田さんにとって、彼氏がいるなんて噂が立ったら大変でしょ!」
「そ、それは大丈夫です。うちの事務所、恋愛禁止とかはないので」
「で、でも個人的にイヤとか思わないの!?」
「そ、それは・・・相手の方によります」
なぜかいろりは俺の方を見て、睨みつけてきた。
なんなんだ一体、いろりはどうしてそんなに怒ってるんだよ。もしかして思春期なのか、そういうお年頃なのか!っていうのは冗談で、本当は何となく分かっている。いろりが怒っている理由も、この提案を否定する理由も、それはいろりが俺のことを・・・。
「それで園田さんがいいのなら私はこの案でいいと思うのだけれど、佐倉さん、それでいいかしら?」
「・・・わかりました、可憐さんがそういうのなら、この案でいきます」
嫌そうだったが、この案で行くことを承諾した。書記扱いの峯崎は必死でメモを取っている。
「でもその彼氏ってどうするんですか?」
ずっと黙っていた鮫島さんが口を開き、的確な質問をする。それに対していろりは色々考えている様子だったが、なにも思いつかなかったのか一言だけ口にした。
「勝手にしなさいよ」
その言葉はまるで俺に対して言っているようだった。とても悲しそうに、そしてなにかを決意したかのように。
「ではそうね、かわいそうな2択だけれども、峯崎くんと後輩くん、園田さんはどちらがいいかしら?」
淵野先輩は容赦がない。ここにいる誰もがそう思っただろう。俺はとてもいろりを見ることができなかった。
「そ、そうですね・・・その2人で選ぶとしたら・・・
・・・さんですかね」
この発言により部室の雰囲気は、最悪の一言ではおさまらないほど、すごいものになった。




